前提

複数の法人と取引しながら、売上の約8割を主力一社が支える設備工事会社

取引先が複数あることと、受注の柱が複数あることは、必ずしも同じではありません。 佐賀県に拠点を置くある設備工事会社では、主力の元請け一社が売上の約8割を占め、残りを地場の建設会社や工務店、不動産会社などからの仕事が支えていました。

売上は年間5,000万円台の規模で、施工は協力会社や付き合いのある職人に依頼し、社長が現場管理と内勤業務を担っています。基本的には一次下請けとして入り、公共施設や福祉施設などの改修工事を手がけるほか、店舗やビル、上下水道関連の工事にも対応しています。

社長は、現在の取引状況をこう話していました。

「取引先自体の数は、それなりにあるんですよ。ただ、全部が全部、年がら年中コンスタントに来るわけでもないので」

主力一社からも、時期によって仕事の濃淡はあります。それでも通年で見ると、その一社が大きな柱になっている状態です。ほかの取引先は発注量が年によって変わり、主力に並ぶ柱には育っていません。

目指しているのは、今の取引を入れ替えることではなく、将来の事業拡大に向けて頼れる発注元を増やすことです。既存の主力先を大切にしながら、それ以外にも継続して仕事が入る関係をつくることが、開拓の出発点になります。

課題

ネット広告を出しても新規受注がなく、主力以外の発注が不定期なまま

増やしたいのは取引先の名前ではなく、実際に発注が続く取引関係です。 この会社では、取引先開拓に向けてネット広告を出していましたが、半年近く経った時点でも、新規受注にはつながっていませんでした。

一方、既存の取引先は複数あります。つまり、単純に「知り合う会社が少ない」という悩みではありません。付き合いがあっても発注が不定期で、年間の売上を支える関係が主力一社に偏っていることが、課題の中心です。

社長の希望も、一社から大量の仕事をもらうことだけではありませんでした。

「ここ一点集中というより、年間少なくてもいい。一件、二件でもいいから、数が欲しいですね」

年に数件の発注でも、そうした取引先が複数あれば、主力以外からの受注を積み上げられます。ただし、取引先が増えれば、必ず仕事の時期が分散するとは限りません。社長自身も、発注がばらけるか、集中するかは「やってみないとわからない」と捉えていました。

そのため、開拓の成果は、接点を持った社数だけでは判断しにくいものです。初回の受注につながるか、その後も依頼が見込めるか、無理なく対応できるかまで見て、受注の柱になり得る先を選ぶ必要があります。

背景

営業をしなくても仕事が来た一方、社長の現場管理には余力が少ない状態

これまで仕事が足りていたことと、これからの成長を支える発注元が足りていることは、分けて考えたいところです。 社長は個人事業の頃から、特別な営業活動をしなくても周囲から仕事を頼まれてきました。

「営業せずに、ありがたいことに周りから仕事が来ているので。来てくれる分で十分だったんです」

今の規模を維持するだけなら、積極的な開拓は必須ではありません。しかし、今後は九州内で対応エリアを広げ、事業を大きくしていく考えがあります。その将来像に対しては、既存の発注元だけで十分な仕事が増えるとは見込んでいませんでした。

同時に、受注を増やすための管理体制も必要です。職人の手配は協力会社との関係で対応できる一方、現場を管理する役割は社長に集中しています。

「職人はどうにかなるところではあるので」

「まず、僕の時間をつくらせて、という感じです」

この二つの言葉から見えるのは、施工する人を集めることよりも、現場管理を任せられる人を確保することが先の課題になっている点です。仕事を増やしても、管理する役割が社長に残ったままでは、開拓に使える時間も増えません。

また、社長は案件の収益性と手間の関係も重視しています。個人客やハウスメーカーを積極的な対象にしていない理由には、時間が取られる割に利益が少ないという認識がありました。

開拓先を選ぶ際には、「仕事があるか」だけでなく、「その仕事を受けたとき、利益と管理の余力が残るか」を合わせて見ることが大切です。

解決

既存の商流を守り、年に数件の改修需要が見込める法人を管理余力に合わせて開拓

開拓先は継続性・収益性・管理負担・対応エリアで絞り、現場管理者の確保と開拓準備を並行して進める方針が、この会社の状況に合っています。 法人であれば幅広く候補にはできますが、実際に働きかける先は、自社が引き受けたい仕事に照らして選ぶ必要があります。

既存の取引関係と対応エリアから、働きかけられる候補を整理する

最初に確認したいのは、主力の元請けや既存取引先との関係です。現在の商流を把握せずに候補へ働きかけると、既存の取引関係への配慮が必要な相手も混ざります。

まずは、今の発注元、その先にいる取引先、新たに開拓したい企業の関係を整理し、角が立たない候補を選びます。そのうえで、実際に対応できるエリアへ絞る順番です。

将来は広域対応を目指していても、現時点では社長が現場管理を担っています。将来進出したい地域と、今の体制で無理なく管理できる地域は、分けて候補を整理することが重要です。 全国の候補を集めることよりも、出張や現場管理を含めて対応できる範囲を明確にするほうが、具体的な開拓につながります。

建設会社だけでなく、建物を管理・保有する法人へ対象を広げる

候補は、建設会社や設備会社に限りません。社長が挙げていたのは、ビル管理会社、不動産オーナー、ビルや集合住宅を保有する企業、社宅を持つ会社などです。

「建設会社だけとか、設備会社だけとかじゃなくて、とにかく企業ですね」

「メンテナンスだったり、そういうのでも全然大丈夫なんですよ」

建物のメンテナンスや改修は、同社が手がけている設備工事と接点があります。建物が古くなれば、より大きな改修の話につながる可能性もあります。ただし、建物を持っているだけで継続発注があるとは限らないため、候補の段階では需要の有無を確認していく必要があります。

開拓対象を広げるとは、知らない工事に手を出すことではなく、今の施工領域を必要とする発注元を広く探すことです。 公共施設や店舗、ビルなどで培った改修経験を軸に、対応できる仕事を求める法人を選ぶ考え方です。

「年に数件でも付き合いたい相手か」を四つの軸で見る

候補を比較するときは、次の四つの軸で整理すると、社長の希望と実際の開拓先を結びつけやすくなります。

  • 継続性: 初回限りの工事なのか、改修やメンテナンスで再び依頼される余地があるのか。
  • 収益性: 工事の単価だけでなく、対応に取られる時間に対して利益が残るのか。
  • 管理負担: 現場管理や図面対応などを、現在または採用後の体制で引き受けられるのか。
  • 対応エリア: 移動や出張を含めて、既存の現場と両立できる場所なのか。

この会社では、得意不得意や仕事の好みもありながら、「好みではないけれど利益が出る仕事もある」と社長が話していました。得意な仕事だけに限定する必要はありませんが、受注額だけで選ぶのでもありません。

年に一、二件でも、利益が残り、管理でき、次の依頼につながる相手なら、新たな柱の一部になり得ます。 一社に主力と同じ発注量を求めるより、こうした関係を複数つくるほうが、社長の希望に沿っています。

現場管理者の採用を先行し、候補整理は止めない

現場管理の余力が少ない場合は、受注を増やす動きと、その受注を引き受けられる状態をそろえる必要があります。社長も、採用と開拓をほぼ同時に進めたい一方、どちらかを先にするなら採用が「僅差で上」と話していました。

ここでは、現場管理者の採用を先行させつつ、開拓先の整理や情報収集を並行する進め方が考えられます。採用が決まるまで開拓準備をすべて止めるのではなく、既存の商流、対応エリア、狙いたい法人を先に整理しておく形です。

採用後も、現場管理を最初から全部任せる前提にはしません。社長は、まず一部でも持ってもらえれば助かると考えていました。実際に任せられる現場管理の範囲が見えてから、新しい案件を引き受ける量を調整することが、開拓と施工をつなぐ判断になります。

まとめ

一社依存を和らげるには、取引社数を増やすだけでなく、年に数件でも継続して発注する相手を複数持つことが要点です。 その候補は、建設会社だけでなく、改修やメンテナンスを必要とする建物管理会社、不動産保有企業などにも広げられます。

ただし、候補が多いほどよいわけではありません。既存の取引関係を守れるか、利益が残るか、管理できるか、対応エリアに収まるかを確認し、自社に合う先へ絞ることが大切です。

ネット広告から新規受注がない状況でも、それだけで原因を決めつけることはできません。まずは、誰からどのような仕事を受けたいのかを具体的にすることが、次の開拓方針を考える土台になります。

社長の現場管理が限界に近いなら、管理者の確保を先行しながら開拓準備を進め、任せられる範囲に合わせて受注を増やす。 今の主力先との関係を保ちつつ、新たな柱を育てるための、無理の少ない進め方です。

自社に合う発注元と、開拓を進める順番の整理

「どの法人を狙うか」と「どこまで受注を増やせるか」を一緒に整理すると、次に取り組むことが見えやすくなります。 「取引先はあるけれど発注が続かない」「開拓したいが、社長の管理業務が手いっぱい」という段階でも、相談を始められます。

ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。取引先開拓では、既存の商流や得意な施工領域、対応エリアを踏まえた候補選びと、受注を支える体制づくりの順番を一緒に考えます。

「うちの場合は、何から整理すればよいか」という段階でも構いません。無理な営業は行いませんので、まずは現在の取引構造や、増やしたい仕事についてお聞かせください。

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