前提

外注と社長自身の施工で仕事を回してきた設備工事会社の初めての直接雇用

外注を頼みながら仕事を回すことと、従業員を迎えて一緒に会社をつくることは、準備する中身が異なります。 仕事量が増えて人手が必要になったとき、その違いをどこから整理するかが、最初の採用の出発点になります。

佐賀県に拠点を置く、設備工事を中心としたある専門工事会社も、その段階にありました。個人事業から法人化し、年商は8,000万円前後。従業員はまだおらず、社長自身が現場に入りながら、下請けに施工を依頼し、二手、三手に分かれて仕事を進めてきました。

「仕事量が増えて、一人では回せなくなってきたんです」

今後は売上と利益を伸ばし、地元の拠点を残しながら、九州の広い範囲で動ける体制をつくりたい。そのために、初めて直接雇用を考えています。採用向けの短い動画や求人の配信も始めていましたが、まだ開始から日が浅く、反応を見ているところでした。

一方、何人採るのか、どのような人を迎えるのかは、まだ具体化できていませんでした。

「人を雇ってやったことがないので、何人必要かと言われても、想像でしかないんです」

これは、成長意欲が足りないという話ではありません。これまで外注で対応できていた会社が、雇用を前提とした仕事の分け方を初めて考える場面です。まず整理したいのは、将来の組織図全体よりも、最初の一人とどう働くかです。

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課題

売上目標だけでは決まらない最初の一人の役割と採用条件

採用人数を決めにくい理由は、売上目標と、入社する人に任せる仕事がまだつながっていないことにあります。 目標があっても、一人増えたときに何が変わるかが見えなければ、必要な経験も、提示できる待遇も決めにくくなります。

相談した社長も、「一人増えたからといって、どれだけ生産性が上がるかも見込めていない」と話していました。給与は少なくとも相場程度を出したい。手当も考えている。ただ、採用後にすぐ退職されるようなことは、できるだけ避けたいという思いがあります。

「失敗したくないというより、今は失敗する余裕がない、というのが正直なところです」

この状態で募集方法だけを増やしても、応募者に何を期待し、何を約束するかという問いは残ります。施工を担う人を探すのか、施工管理を任せたいのかによっても、求める経験や採用の難しさは変わります。

そのため、初めての採用では、少なくとも次の四つをひと続きで考える必要があります。

  • 最初の一人に、どの仕事を任せたいのか
  • その仕事を任せるために、入社時点でどの経験が必要なのか
  • 給与や手当など、今の会社が何を約束できるのか
  • 入社後、社長が何を教え、どう一緒に仕事を進めるのか

「何人いれば目標に届くか」の前に、「一人目が入ると仕事の分担がどう変わるか」を具体化することが、採用条件を決める土台です。

背景

「自分と働きたい人を迎えたい」という思いと応募者が求める具体的な説明

社長との相性を大切にする採用ほど、人柄への共感だけでなく、仕事と待遇の説明が重要になります。 一緒に働く相手を慎重に選びたい気持ちと、応募者が生活や将来を考えて職場を選ぶことは、両方とも大切にしたい前提です。

社長には、明確な思いがありました。

「この仕事をやりたいというだけではなく、僕と仕事をしたいと思ってもらいたいんです」

外注への依頼ではなく、仲間として長く働く人を迎えたい。そのため、面接で自分の人となりをどう知ってもらい、相手との相性をどう確かめればよいかを気にしていました。

ただ、人柄が伝われば長く働いてもらえる、とまでは言い切れません。応募者にとっては、給与や待遇がどうなるか、どのような仕事を任されるか、何を学べるかも、入社を判断するための情報です。

実際、この会社には、以前から声をかけている仕事仲間もいました。相手からは、転職して同じ仕事を続けるなら社長の会社に行きたい、という意向も聞いていましたが、入社は決まっていませんでした。相手には家庭があり、社長自身も、独立して事業を広げる自分と、安定を考えて転職する相手では、判断の前提が違うことを感じていました。

ここで、ためらいの理由を熱意や覚悟だけで捉えてしまうと、確認すべき条件が見えにくくなります。親しい相手であっても、転職を決めるために何が足りないのかは、本人と具体的に確かめる必要があります。

会社の将来像も同じです。この社長の拠点移転の構想は、地元を離れるためではなく、既存の取引を守りながら広域で動くためのものでした。その意図は、詳しく説明して初めて伝わりました。社長の頭の中ではつながっている計画も、初めて聞く応募者には、背景から説明することが大切です。

解決

任せる仕事と約束できる条件を固めてから募集と面接を準備する順序

準備は、役割・経験・待遇・指導の整理、人物像に合う募集方法の選択、応募対応と面接の確認、という順序で進めると考えやすくなります。 すでに求人を出している場合も、反応を待つ間にこの中身を整えられます。

1.最初の一人に任せたい仕事を言葉にする

最初に決めるのは、採用人数ではなく、一人目の役割です。社長自身が行っている仕事と、外注に依頼している仕事を踏まえ、どこを従業員に任せたいのかを整理します。

この会社であれば、施工を担ってもらうのか、施工管理を任せたいのかが、まず確認する分かれ目です。そこが曖昧なままでは、「経験者がほしい」という希望だけが先に立ち、経験のどの部分が必要なのかを説明できません。

判断軸は、その人が入ることで、社長の仕事と外注への依頼がどう変わるかを説明できるかどうかです。一人採用すれば生産性が一律に上がる、と置くのではなく、任せたい仕事から変化を考えます。

2.必要な経験と社長が教える範囲を合わせる

必要な経験は、入社後の指導と切り離さずに決めます。入社時点でできていてほしいことと、入社後に社長が教えることを分ければ、どこまでを採用条件にするかが見えてきます。

対話では、人を採っても、教えなかったり、教え方が分からなかったりすれば、働き続けてもらいにくいという指摘もありました。ただし、この会社で指導上の問題が起きていたわけではありません。これから初めて人を迎えるからこそ、受け入れ前に考えておきたい点です。

任せたい仕事の難しさと、社長が教えられる範囲の両方から、求める経験を決めることが重要です。 将来は任せたい仕事でも、入社直後から任せる仕事とは分けて説明すると、期待のずれを減らしやすくなります。

3.待遇は「実現したいこと」と「約束できること」を分ける

給与や手当、福利厚生は、会社の将来への意欲とは別に、現時点で説明できる内容を整理します。相場程度は出したいという思いを、応募者が判断できる条件へ具体化する段階です。

この会社では、法人化による費用の変化に加え、工事予定や入金のずれもあり、資金繰りを見直していました。採用に使える予算には限りがあります。だからこそ、募集にかける費用と、入社後に約束する待遇を合わせて考える必要があります。

大切なのは、見栄えのよい条件を並べることではありません。今できること、まだできないこと、今後実現したいことを分けて伝えることが、最初の一人への誠実な説明になります。

4.人物像が見えてから募集方法を選ぶ

募集方法は、欲しい人がどこにいて、どのように仕事を探しているかに合わせて選びます。知人への声かけ、公募、人材紹介などは、同じ役割を持つ手段ではありません。

すでに信頼できる仕事仲間へ声をかけているなら、まずは任せたい仕事と条件を具体的に伝え、相手が何を確かめたいのかを聞くことができます。一方、公募するなら、整理した人物像に向けて求人原稿をつくり、予算に応じて無料で利用できる求人窓口や媒体も検討する進め方です。

動画やホームページも、その人に何を知ってもらうためのものかを明確にします。社長の考え方、仕事への姿勢、任せたい役割、待遇がつながっていれば、応募者も自分に合う会社かを考えやすくなります。

この会社では、外部に動画制作や配信、候補者管理などを依頼していました。外部に任せる場合も、どこに掲載し、どこまで対応してもらい、何を社長自身が担うのかを確認することが必要です。 媒体の数より、採用までの役割分担を把握することを優先します。

5.応募への電話・メール対応と面接の想定問答を準備する

応募が来てから慌てないよう、電話やメールでのやり取りと、面接で説明する内容まで準備します。初めてなら、対応の仕方を確認し、面接の練習や同席を頼む方法もあります。

面接前に整理しておきたいのは、次のような内容です。

  • 入社後に任せたい仕事と、求める経験
  • 給与・手当・福利厚生について約束できる範囲
  • 社長が教える内容と、働きながら身につけてほしいこと
  • 会社が目指す方向と、その人に期待する役割

これらについて質問を受けたとき、求人原稿や動画と食い違わずに答えられるかを確かめます。面接は、社長が相手を見極めるだけでなく、相手にも入社を判断してもらう場です。

電話・メール・面接まで、同じ内容を具体的に説明できる状態をつくることが、募集を始める準備の一部です。 採用時期だけを急ぐより、この状態を整えてから反応を見ながら修正するほうが、次に何を変えるべきかも分かりやすくなります。

まとめ

初めて従業員を雇うときは、売上目標から人数を決めるより、最初の一人に任せる仕事から採用を組み立てることが大切です。 必要な経験、約束できる待遇、社長が教える範囲がつながると、求める人物像と募集方法を選びやすくなります。

「自分と一緒に働きたいと思ってほしい」という思いは、最初の採用で大切な軸になります。その思いを、応募者が生活や将来を考えられる具体的な説明にすることが、次の準備です。

まずは一人目について、何を任せるか、何を求めるか、何を約束するか、何を教えるかを言葉にしてみる。そのうえで、募集方法と応募対応、面接までを整える順序が、無理のない一歩につながります。

最初の一人に任せる仕事から一緒に整理するために

採用媒体を選ぶ前の、役割や条件がまだ決まっていない段階から相談できます。 「うちの場合は何を任せるところから考えればよいか」「求人は出しているが、面接の準備まで手が回っていない」といった状態でも構いません。

ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。初めての採用でも、現場の仕事の分担と会社が約束できる条件を踏まえ、必要な準備から一緒に考えます。

無理に採用手段やサービスの利用を勧めるのではなく、今の会社に必要な整理を大切にしています。何から考えるべきか迷っている段階でも、お気軽にご相談ください。

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