前提

施工管理者2名で店舗内装を担う会社では、1人の長期拘束が受注余力を大きく左右する状況

岡山県で木材・別注家具の販売と店舗内装工事を手がける、ある専門工事会社があります。工事金額は1,000万〜2,000万円ほどが中心で、施工管理を担うのは2名です。

百貨店や商業施設内の物販店舗に慣れており、家具の製作・取付だけでなく、内装一式にも対応しています。一方、商業施設の工事は夜間になりやすく、午後9時ごろに入場し、午前2時や3時まで作業することもあります。工程の最初と最後には午前5時近くまでかかる場合もあります。

「昼に現場へ出て、夜も来ることがあります。できれば夜は3時くらいで終えて、次の日に備えたいです」

こうした働き方のなかで、施工管理者が一つの現場に長く張り付けば、別の案件へ動ける余地は小さくなります。

施工管理者が少ない会社では、現場の採算は材料費や外注費だけでなく、“限られた管理者の時間をどれだけ使うか”で決まります。

課題

粗利率2割でも、小規模現場に約3カ月かかれば実質利益がほとんど残らない問題

この会社では、100万円台の小規模な飲食店工事を受けたことがありました。見積上の利益率は約2割です。数字だけを見ると、受注しても問題のない案件に見えます。

ところが、水回りを含む工事全体の管理に約3カ月かかりました。現場そのものは小さくても、管理期間は大型物件と大きく変わりませんでした。

経営者の言葉が、問題を端的に表しています。

「利益率はあるけれど、担当者が3カ月動いた分の給料まで考えたら、そんなに利益はないんです」

仮に工事金額が120万円、粗利率が20%なら、帳簿上の粗利は24万円です。しかし、その24万円から施工管理者の人件費、移動、夜間対応、社内調整などに相当する費用を負担することになります。

さらに、3カ月の間に別の現場を断っていれば、その影響も無視できません。

見るべきなのは粗利率だけではなく、粗利額を得るために何人を何日拘束したかです。

同じ粗利率20%でも、2週間で完了する工事と3カ月かかる工事では、会社に残る利益がまったく異なります。むしろ、小規模工事ほど粗利額が小さいため、管理期間が延びたときの影響を受けやすくなります。

背景

工事金額と利益率を中心に見積もると、夜間対応や待機日を含む管理負担が数字から抜け落ちる構造

採算のずれが起きる背景には、施工そのものの原価は見積もれていても、管理者の拘束コストを十分に見積もれていないという構造があります。

店舗内装では、工事金額が小さいからといって管理負担まで小さくなるとは限りません。特に商業施設では、次のような負担が発生します。

  • 工事可能な時間帯が夜間に限られる
  • 短時間の作業でも管理者の立ち会いが必要になる
  • 工程の間が空いても、担当者として現場対応を続ける
  • 施設側や他業者との調整が発生する
  • 最初と最後の工程では作業時間が延びやすい
  • 現場への移動や待機に時間を使う

この会社でも、夜間工事は午後9時ごろから午前3時ごろまでが中心でした。作業時間だけなら6時間ほどですが、移動や事前準備、翌日の稼働への影響まで考えると、単純な6時間ではありません。

また、スーパーや商業施設の改装では「夜間の2、3日で終わらせなければならない」「ピンポイントで資材を持ち込まなければならない」といった条件もあります。短工期でも、失敗できない案件は管理密度が高くなります。

反対に、小さな現場でも工程が細切れになれば、施工日数以上に拘束期間が伸びます。毎日常駐していなくても、その期間は連絡、手配、確認、再訪に対応しなければなりません。

「実際に現場へ行った日数」と「担当者として案件に拘束された期間」は分けて捉える必要があります。

施工管理者が2名しかいない会社で1名が長期案件を持てば、管理能力の半分がその現場にひもづきます。もう1名に別案件が重なれば、新しい依頼が来ても受けにくくなります。

ここで発生するのが機会損失です。ただし、受けられなかった案件の利益を正確に算出するのは簡単ではありません。まずは「長期拘束によって、見積提出や現場着手を見送った件数」を記録するだけでも、判断材料になります。

工事の採算が悪いのではなく、会社の限られた施工管理能力に対して、その工事が使う時間が多すぎる場合があります。

解決

粗利額を管理人日で割り、受注前に工期・夜間・移動・待機を確認する案件別採算管理

受注判断では、粗利率に加えて、粗利額と管理者の稼働日数を並べて見る方法が現実的です。

最初から精緻な原価管理を目指す必要はありません。まずは案件ごとに、次の項目を一枚にまとめます。

  • 受注金額
  • 材料費・外注費
  • 見積上の粗利額と粗利率
  • 着工から引渡しまでの期間
  • 施工管理者の現場稼働日数
  • 社内での手配・打ち合わせ日数
  • 夜間対応の回数
  • 往復の移動時間
  • 工程間の待機や再訪の回数

粗利率と一緒に「管理人日あたり粗利」を見る

判断に使いやすい指標は、次の二つです。

  • 案件粗利額=受注金額-材料費-外注費-案件に直接かかる経費
  • 管理人日あたり粗利=案件粗利額÷施工管理者の総稼働人日

たとえば粗利額が24万円でも、管理に24人日かかれば、管理人日あたり粗利は1万円です。一方、粗利額が20万円でも5人日で完了すれば、管理人日あたり粗利は4万円になります。

この比較をすると、粗利率だけでは優良に見えた案件の負担が見えやすくなります。

利益率が高い案件より、限られた管理人日で必要な粗利額を残せる案件を優先することが、少人数の会社には重要です。

なお、管理人日には現場常駐日だけでなく、次の時間も含めます。

  • 現地調査と打ち合わせ
  • 職人や協力会社の手配
  • 資材の納期確認
  • 施設側との調整
  • 夜間立ち会い
  • 手直しや追加対応
  • 移動時間

半日や数時間の対応は、0.5人日など社内で共通の単位に置き換えると集計しやすくなります。

受注前に「施工日数」ではなく「拘束期間」を確認する

見積依頼を受けた段階では、工事金額と施工範囲だけでなく、管理者がいつからいつまで関わるのかを確認します。

最低限、次の点は発注者へ確認しておきたいところです。

  1. 着工日と引渡し日はいつか
  2. 実作業日は連続しているか、飛び飛びか
  3. 昼間工事か夜間工事か
  4. 現場への常駐が必要か
  5. 施設側との定例会議や事前協議はあるか
  6. 他工種の進捗による待機や再訪が想定されるか
  7. 現場までの移動時間はどの程度か

「工事は何日ですか」だけでは足りません。「担当者は何日、何時間、どの時間帯に必要ですか」まで確認することが大切です。

工期が確定していない場合は、想定日数に幅を持たせます。たとえば「管理5〜8人日」「夜間対応3〜5回」と置き、上限側でも採算が合うかを確認します。

管理工数を見積金額へ反映する

長期拘束や夜間対応が見込まれる案件では、管理負担を無償の社内業務にしないことも必要です。

見積書では、現場管理費、夜間対応費、交通費など、案件の性質に応じた項目として計上します。発注者の指定書式で個別計上しにくい場合でも、社内見積では必ず原価として持っておきます。

判断の順番は次のとおりです。

  1. 必要な管理人日を見積もる
  2. 夜間・移動・待機による負担を加える
  3. 必要な粗利額を算出する
  4. 見積金額へ反映する
  5. 金額を反映できない場合は、工期短縮や常駐条件の変更を相談する
  6. 条件変更も難しければ、受注可否を判断する

管理費を上乗せできるかだけでなく、工期や常駐条件を調整できるかも採算改善の判断軸になります。

自社の受注可否基準を過去案件から作る

受注基準を決めるときは、一般的な利益率をそのまま当てはめるより、自社の過去案件を比べるほうが実務に合います。

直近の案件を10件ほど並べ、次の数字を確認します。

  • 粗利率
  • 粗利額
  • 管理人日
  • 管理人日あたり粗利
  • 拘束期間
  • 夜間対応回数
  • 追加対応の有無

そのうえで、「負担が少なく利益が残った案件」と「忙しかったのに利益が残らなかった案件」の違いを見ます。

たとえば、受注基準として次のような条件を設定できます。

  • 最低粗利額を満たしている
  • 管理人日あたり粗利が社内基準を下回らない
  • 3カ月以上の拘束案件は、別途管理費を確保する
  • 夜間対応が一定回数を超える場合は追加費用を計上する
  • 施工管理者2名のうち、同時期に2名とも長期拘束されない

基準額は会社ごとに異なります。まず3カ月ほど実績を記録し、自社で無理なく利益が残る水準を見つける進め方が現実的です。

受注基準は「利益率○%以上」だけでなく、「粗利額」「管理人日」「拘束期間」の三つを組み合わせると機能しやすくなります。

まとめ

見積上の利益率が確保できていても、施工管理者が長期間拘束されれば、会社に利益が残らないことがあります。特に施工管理者が2名程度の会社では、1人の拘束が次の受注へ直接影響します。

確認したいのは、次の4点です。

  • 粗利率だけでなく粗利額を見る
  • 管理者の稼働を人日で記録する
  • 夜間、移動、待機、再訪を管理工数へ含める
  • 粗利額を管理人日で割り、案件同士を比較する

「いくら儲かるか」と同時に、「その利益を得るために管理者の時間をどれだけ使うか」を見ることで、実態に近い受注判断ができます。

まずは、長くかかった現場を一つ選び、見積時の粗利額と実際の管理人日を振り返るところから始められます。それだけでも、次の見積で確認すべき条件が見えやすくなります。

自社に合う案件採算の基準を整理したいときは

「利益率は悪くないのに資金や人手に余裕が残らない」「管理者の拘束コストをどう見積もればよいかわからない」という場合は、案件別の収支と施工管理者の稼働を一緒に整理すると、判断しやすくなります。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、組織、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。現在の見積や案件台帳をもとに、粗利額、管理人日、拘束期間をどう管理するかという段階からご相談いただけます。

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