食品工場の電気工事を軸に、新しい取引先を探し始めた首都圏の専門工事会社
首都圏を拠点とする、ある電気工事会社では、食品工場内の工事を継続的に手がけています。機械の設置に伴う電源のつなぎ込みや、モーターの整備などが主な対応領域です。
既存の取引先から仕事は入っています。現場がなくて困っている状態でもありません。一方で、今後の成長を考えると、特定の取引先だけに頼らず、自社の技術を生かせる販売先を少しずつ増やしたいという考えがありました。
「機械屋さんは設備をつくって入れる。うちは電気なので、設置時の電源のつなぎ込みやモーター整備で関われます」
この言葉からも分かるように、狙うべき相手は単なる“工場を持つ会社”ではありません。機械設備の設置や保守があり、その周辺で電気工事が発生する会社です。
新規営業では、企業数を増やす前に、自社の工種がどの発注構造に入れるのかを明確にする必要があります。
業界理解のない営業リストでは、自社の工事と関係の薄い会社ばかりが並ぶ状態
建設業の新規営業で起きやすいのが、リストの件数は多いのに、話を聞いてもらうべき会社がほとんど入っていない問題です。
業種だけで「製造業」「ビルメンテナンス会社」「設備会社」と絞っても、自社の仕事につながるとは限りません。同じ製造業でも、工場を持たない会社があります。工場があっても、必要とされる工種が違う場合もあります。
実際、冷却設備の清掃に特化した別の専門工事会社では、外部に営業先の抽出を依頼したものの、自社の仕事と関係の薄い企業が多く含まれていました。結局、担当者が地図サービスで工場を一つずつ確認し、冷却設備がありそうな約200件を自力で探したそうです。
「リストが自社の仕事に合わず、最後は一件ずつ工場を見て探しました」
こうなると、電話をかける前に大きな工数がかかります。仮に接点を持てても、「その工事は発生しません」「窓口が違います」で終わりやすくなります。
営業リストの精度は、企業情報の多さではなく、“自社に発注する可能性がある理由”を説明できるかどうかで決まります。
「食品工場」という業種分類だけでは、工種・拠点・窓口の違いを拾えない事情
営業先がずれる背景には、建設業特有の取引構造があります。
たとえば、食品工場の工事を増やしたい場合でも、営業先は食品メーカー本体だけではありません。工場ごとの設備担当部署、調達部門、グループのエンジニアリング会社、機械設備会社など、複数の入口があります。
さらに、企業名が同じでも、工場や事業所によって発注窓口が違うことがあります。本社へ一度電話して反応がなかったからといって、その企業全体に需要がないとは判断できません。
相談先の会社でも、候補企業を見ながら、次のような確認が続きました。
「その会社の工場はどこにあるんですか」
「機械屋さんなら、うちの電気工事と組める可能性はあります」
ここで見ているのは、業種名ではありません。自社との具体的な接点です。加えて、社長や現場責任者が訪問できる距離かどうかも重要でした。首都圏全域を対象にするのではなく、拠点から車で90分程度の範囲に絞る考え方です。
また、既存取引先の販売先や仕入先を確認すると、似た発注構造を持つ会社が見つかる場合があります。現在の取引先と同じエンジニアリング会社が出入りしている工場であれば、自社に近い工事の進め方や常駐体制が存在する可能性があります。
見るべきなのは会社名の一覧ではなく、工種との親和性、工場の所在、既存取引先との共通点、実際の発注窓口です。
工種・発注構造・90分圏で絞り、部署別の小さな接触から市場性を確かめる進め方
精度の高い営業リストは、最初から大量につくる必要はありません。まず、自社に合う条件を決め、少数の候補へ接触します。その反応を見てから広げるほうが、営業工数を抑えやすくなります。
最初に整理したい条件は、次の5つです。
- 自社の工種と相手の設備・工事に接点があるか
- 工場や事業所を持っているか
- 既存取引先と近い販売先・仕入先・協力会社があるか
- 本社、工場、設備担当部署、調達部門などの窓口を分けられるか
- 社長や現場責任者が無理なく動ける時間圏にあるか
今回のような電気工事会社であれば、「食品メーカー」という条件だけでは広すぎます。「食品工場を持つ」「機械設備の設置や保守がある」「電源接続やモーター整備が発生し得る」「拠点から車で90分圏内」と重ねていきます。
次に、既存取引先を起点に候補を探します。企業データベースなどから、既存取引先と共通する販売先や仕入先を確認します。同じ設備会社やエンジニアリング会社が関わる企業があれば、発注構造が近い可能性があります。
そのうえで、候補を一つの代表電話だけで管理しないことも大切です。次のように窓口を分けます。
- 本社の調達・購買部門
- 工場ごとの設備・保全部門
- 工事を管理する技術部門
- グループのエンジニアリング会社
一社につき一窓口ではなく、工事を発注・管理する単位ごとに営業先を捉えることがポイントです。
条件を決めたら、まずは限定したエリアと件数で接触します。電話で会社概要を伝え、面談につながった先では、対応工種や施工実績を説明します。技術的な質問や見積もりの段階で、社長や工事担当者につなぐ形でも進められます。
この期間は、受注件数だけで良し悪しを判断しません。管理表には、少なくとも次の反応を残します。
- 自社の工種に需要があったか
- 窓口は合っていたか
- 別部署やグループ会社を案内されたか
- 現地調査や見積もりにつながったか
- 対象エリアを広げる価値がありそうか
一定件数に接触すると、「食品メーカー本体よりエンジニアリング会社のほうが話が早い」「本社より工場の設備担当部署のほうが反応がある」といった傾向が見えてきます。その結果を使い、次のリスト条件を調整します。
採用して営業部をつくる前に、小さな営業活動で市場性と有効な窓口を確かめれば、自社に必要な営業体制も判断しやすくなります。
まとめ
新規取引先の開拓では、営業リストの件数が多いほど成果が出るわけではありません。自社の工種と相手の発注構造が合っていなければ、電話や訪問の工数だけが増えてしまいます。
まずは、既存取引先で発生している工事を分解します。どの設備に関わり、誰が発注し、どの会社が元請けや協力会社として入っているのかを確認します。
そのうえで、工場・事業所の有無、販売先・仕入先、グループ会社、部署、車で移動できる時間圏を条件に候補を絞ります。少数へ接触し、反応を管理表に残しながら、対象を広げていく流れです。
受注につながる営業リストとは、自社に合いそうな企業名の一覧ではなく、“なぜこの会社のこの窓口へ連絡するのか”が整理されたリストです。
自社に合う営業先の条件を整理したいときは
「うちの場合、どの業種や部署を狙えばよいのか」「既存取引先に近い会社をどう探せばよいのか」という段階からでも整理できます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の販路拡大をはじめ、現場・採用・組織・原価管理・デジタル活用まで横断して課題を整理し、実行を支援しています。営業先の条件設計やリスト作成、小規模な市場検証、営業の進め方を社内に残すところまで、自社の状況に合わせて一緒に考えます。
まだ営業部をつくるか決めていない場合や、何から整理すべきか分からない場合でも構いません。無理に営業を進めることはありませんので、次の整理先として気軽にお声がけください。