未経験者の月給に一律の固定残業代を含めていた建設会社
月給総額が十分に見えても、固定残業代を除いた賃金で最低賃金を確認する必要があります。
住宅関連の工事を手がける、ある建設会社では、社員として働く職人や施工管理職の求人条件を整理していました。高卒の未経験者、専門学校卒の新卒者、経験者。それぞれの給与条件を確認する中で、固定残業代の設計が確認事項になりました。
未経験・無資格で入る人の月給は20万円台です。その月給の中に、給与水準にかかわらず同額の固定残業代を含めていました。
ところが、固定残業代を差し引くと、最低賃金との比較に使う賃金が想定より少なくなります。最低賃金の改定を受け、未経験者の給与条件が基準を満たすか、再計算が必要になったのです。
ここでいう固定残業代は、一定時間分の時間外労働などに対する賃金を、あらかじめ定額で支払う仕組みです。単に月給へ手当を加える話ではありません。通常の労働に対する賃金と、残業に対する賃金を分けて考える必要があります。
月給総額だけでは最低賃金も固定残業代の対象時間も判断できない問題
確認したいのは「月給はいくらか」だけでなく、「通常の労働にいくら払い、何時間分の残業代を含めているか」です。
会社側からは、「最低賃金というのは、18歳が対象なんですか」という質問もありました。
地域別最低賃金は、原則として年齢や経験、雇用形態を問わず適用されます。高卒の未経験者だから、通常より低く設定できるわけではありません。法令に基づく減額特例には許可が必要で、会社の判断だけでは適用できません。
また、最低賃金は月給総額をそのまま比較するものではありません。固定残業代など、比較に含めない賃金を除き、時間額へ換算して確認します。
もう一つの論点は、一律の固定残業代が何時間分に当たるかです。給与水準が違えば、残業代を計算する際の時間単価も変わります。同じ金額を支払っていても、対象となる残業時間数は同じになりません。
「金額が一律」と「時間数が一律」は、別の設計です。 この違いを整理しないまま求人票を作ると、給与の下限と上限で内訳や対象時間が合わなくなる可能性があります。
先に決めた月給総額と一律手当のルールが改定後の基準と合わなくなる構造
月給総額を先に決め、その中へ一律の固定残業代を入れると、給与が低い層ほど通常の労働に対する賃金が不足しやすくなります。
この会社では、まず「高卒はいくら、専門学校卒はいくら」という月給の設定を進めていました。その後、一律の固定残業代を含めた内訳を確認したところ、最低賃金との関係を見直す必要が出てきました。
会社側からは、「一律にする必要はないんですか」という声が上がりました。
同じ手当額にそろえることは、社内で説明しやすい面があります。ただ、基本給が異なる人に同額の固定残業代を設定すると、それぞれの対象時間数まで確認する必要があります。総額を据え置くのか、手当額を維持するのかによっても、必要な調整は変わります。
計算の前提となる労働時間にも、確認の余地がありました。年間休日から月平均の時間を概算していましたが、会社カレンダーには有給休暇の取得日が含まれていました。所定休日と有給休暇を分けなければ、所定労働時間を正しく確認できません。
さらに、求人原稿を画面で確認すると、給与欄や基本給の内訳に修正前の記載が残っていました。
給与のルール、計算に使う会社カレンダー、公開する求人票。この三つをそろえることが、見直しの出発点です。
最低賃金の再計算から始めて固定残業代の統一ルールと求人表記をそろえる手順
先に最低賃金を満たす通常賃金を確認し、その上で固定残業代の金額と時間数を設計すると、判断しやすくなります。
まずは最新の最低賃金と月平均所定労働時間を確認する
確認する順番は、次の三つです。
- 適用される最低賃金:事業場に適用される地域別最低賃金の最新額と発効日を、厚生労働省や都道府県労働局の公表情報で確認します。特定最低賃金の対象となる場合は、その適用も確認します。
- 比較に算入する賃金:基本給と各手当を分け、最低賃金との比較に含められるものを確認します。
- 月平均所定労働時間:就業規則と会社カレンダーに基づき、年間の所定労働時間を確認して12で割ります。
最低賃金との比較からは、固定残業代のほか、通勤手当、家族手当、精皆勤手当、賞与などが除かれます。深夜労働については、通常の賃金を超える割増部分を除きます。手当は名称だけでなく、支給の実態も確認します。
月給制の基本的な確認式は、次のとおりです。
最低賃金の比較対象となる月額賃金 ÷ 月平均所定労働時間 ≧ 適用される最低賃金の時間額
所定労働時間は、休憩時間や残業時間を含めない、会社が定めた労働時間です。会社カレンダー上の有給休暇取得日は、所定休日と同じ扱いで所定労働時間を減らすものではありません。
相談の中で使われた概算額や時間数を、そのまま自社へ当てはめるのは避けたいところです。最新の最低賃金と、自社の所定労働時間で計算し直します。
金額をそろえるか、時間数をそろえるかを決める
金額を統一するなら対象時間数を給与水準ごとに計算し、時間数を統一するなら必要な金額を給与水準ごとに計算します。
金額をそろえる方式では、残業代の時間単価が高い人ほど、同じ固定残業代でカバーする時間数は少なくなります。時間数をそろえる方式では、時間単価が高い人ほど、固定残業代の金額が大きくなります。
どちらを選ぶかは、「何をそろえたいのか」で考えられます。手当額をそろえたいのか。あらかじめ支払う残業時間数をそろえたいのか。まず、その意図を社内で共有します。
対象を通常の法定時間外労働とする場合、基本的には、割増賃金の算定基礎となる時間単価に、適用される割増率と対象時間数を掛けて確認します。通常の法定時間外労働の割増率は原則25%以上ですが、月60時間を超える部分などは率が異なります。
なお、最低賃金との比較に使う賃金と、割増賃金の算定基礎に含める賃金は、除外項目が同じではありません。 二つの計算を分けて確認することが大切です。
未経験者、新卒者、経験者など、設定している給与水準ごとに計算します。求人に給与の幅を載せる場合も、下限だけでなく上限まで対応関係を確認します。
月給総額を据え置く場合も、実際の残業代を確認する
総額の中で基本給を増やし、固定残業代を減らすなら、対象時間数も変わることを確認します。
通常賃金が最低賃金を満たさない場合は、通常賃金の引き上げが必要です。その上で、月給総額を引き上げるのか、総額の中で固定残業代を組み直すのかを検討します。
ただし、内訳を変えれば支払いが完結するわけではありません。実際の労働時間に基づく割増賃金が固定残業代を上回れば、不足分の支払いが必要です。対象時間を超えた分を支払う運用と合わせて確認します。
既存社員の条件を変更する場合は、求人原稿の修正とは分けて考えます。労働条件の変更手続きや不利益変更に当たるかも含め、社会保険労務士などへ確認すると進めやすくなります。
求人票の内訳と毎年の点検をセットにする
求人票には、固定残業代を除く基本給、固定残業代の金額と対象時間数、超過分を別途支給する旨を明示します。
固定残業代が何に対する支払いなのかも明確にします。時間外労働分なのか、休日労働や深夜労働の分も含むのか。計算した条件と、求人票の説明をそろえます。
「固定残業代込み」とだけ書くのではなく、応募者が内訳を確認できる状態にします。複数の求人媒体に掲載している場合は、給与欄と本文の両方に修正が反映されているか、公開画面で確認します。
そして、最低賃金の改定時には同じ点検を繰り返します。発効日に間に合うよう、通常賃金、所定労働時間、固定残業代の対象時間数、求人票を確認します。会社カレンダーや給与水準を変えたときも、再計算の機会です。
まとめ
固定残業代の見直しは、月給総額ではなく、通常賃金と所定労働時間の確認から始めます。
未経験者にも一定の月給を用意したい。その方針と、最低賃金を満たす給与設計は両立させたいところです。
まずは、適用される最新の最低賃金を確認します。次に、比較対象となる賃金と月平均所定労働時間を確定します。その上で、固定残業代を金額でそろえるか、時間数でそろえるかを決めます。
給与水準ごとの計算、求人票への正確な反映、改定時の点検までを一続きにすると、社内にも応募者にも説明しやすい条件になります。
自社の給与内訳と求人票を整理するところから
「うちの固定残業代は、何から確認すればよいか」という段階から整理できます。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。
給与条件についても、固定残業代の統一ルールや、求人票との整合性を整理するところから伴走します。制度上の判断や計算の確認が必要な場合は、適切な顧問・専門家につなぐこともできます。
まだ変更方針が決まっていなくても大丈夫です。無理な営業はせず、まずは自社で確認したいことを一緒に整理します。