前提

既存元請から通信インフラ工事を受注しながら、データセンター案件を新たな足掛かりにしたい専門工事会社

京都府を拠点に近畿圏で電気通信工事を手がける、ある専門工事会社では、既存元請からの通信インフラ案件を中心に実績を積み上げていました。今後は売上を安定させ、一人当たりの労務単価も高めていきたいと考えています。

その足掛かりとして注目していたのが、今後も工事需要が見込まれるデータセンター案件です。すでに関連工事へ入り始めており、現場を通じて協力会社とのつながりも増えていました。

一方で、営業先を単純に増やせばよいわけではありません。同じ通信工事を扱う会社でも、上位発注者から見た立ち位置が二次なのか三次なのかによって、受注条件や一人区当たりの金額帯は変わります。

相談者の言葉にも、その感覚がよく表れていました。

「事業内容が合っていても、元請から見て何次の立ち位置なのかで金額帯は変わります。結局、そこが重要なんです」

開拓先を選ぶときは、施工内容の一致だけでなく、発注者からの距離と商流上の立ち位置まで確認する必要があります。

課題

既存元請に囲い込まれず、関係も壊さずに直接の接点を増やす難しさ

同社が抱えていたのは、建設業では珍しくない「新しい受注先を増やしたいが、既存元請との関係は崩せない」という悩みでした。

現状は、既存元請A社を経由して、上位発注会社B社のデータセンター案件に参加しています。そのB社の担当者からは、「今後、別の案件があれば直接お願いしてもよいですか」と非公式に声をかけられていました。

直接取引へつながる可能性がある一方、A社経由で知った案件をそのままB社との直接取引に切り替えれば、A社から見て商流を飛ばされた形になりかねません。

「話が勝手に進んでしまうと、今の元請は納得しないと思います。ただ、別件から接点をつくった事実があれば、話は変わるのではないかと考えています」

この整理は重要です。問題になるのは、発注会社と直接つながること自体ではありません。既存元請が開拓し、管理している案件や取引関係へ、説明のないまま別ルートから入ることが摩擦を生みます。

そのため、新規開拓では次の二つを分けて考える必要があります。

  • 既存元請から受注している案件と、その延長にある案件
  • 自社が別の経路で見つけた案件、別部門、別エリアの案件

「会社が同じか」だけではなく、「案件・部門・エリア・接点の発生経路が同じか」で商流の競合を判断することがポイントです。

背景

現場で生まれる紹介に営業を頼るほど、接点の経路が曖昧になりやすい構造

同社の営業は、これまで「入った現場の中で次の話につながる」という形が中心でした。建設業では自然な受注経路ですが、紹介や現場接点だけに頼ると、誰のルートで知り合った相手なのかが曖昧になりやすくなります。

「僕らは、実際に入った現場の中で次の話をいただくことが多いんです。ある会社に囲い込まれてしまうと、動きが取れなくなる難しさがあります」

発注会社、元請、一次会社、二次会社、協力会社が同じ現場に入る通信工事では、会社同士の関係が複数の案件で重なります。ある案件では元請と協力会社の関係でも、別案件では同列の会社になることもあります。

さらに、新しい営業先として候補に挙がった会社の多くは、施工領域も主要な販売先も既存取引先と近い企業でした。仕事量を抱えている可能性はあるものの、同じ階層の取引先を増やすだけでは、受注件数は増えても労務単価や立ち位置が変わらない場合があります。

ここで必要なのは、営業先の社数を増やすことではなく、営業先を役割別に整理することです。

  • 現在と同じ立ち位置で、案件量を補完できる会社
  • データセンターなど、成長分野の案件を持つ上位会社
  • 関西拠点を持ち、地域の施工会社を探している域外企業
  • 発注者側で分離発注や工事会社選定に関わる会社

同社の場合、近畿圏の電気通信工事会社だけでなく、首都圏に本社があり関西事業所を持つ会社まで対象を広げる余地がありました。地域内の同業だけを見ていると既存商流と重なりやすいため、別エリアから進出する企業との接点も有効です。

元請への依存は、一社との取引量が多いことだけでなく、新しい接点のほとんどがその会社経由になっている状態から強まります。

解決

案件単位で商流を見える化し、別案件・別部門・別エリアから接点をつくる進め方

既存元請との関係を守りながら取引先を増やすには、最初から「直接取引できる会社」を探すのではなく、既存商流と競合しない入口を探すことが現実的です。

1.既存案件の商流を一枚に整理する

まず、現在動いている案件ごとに、発注者から自社までの流れを書き出します。会社単位ではなく、案件単位で整理するのがポイントです。

最低限、次の項目をそろえます。

  • 案件名または案件区分
  • 発注者、上位会社、既存元請、自社の位置関係
  • 自社が案件を知った経路
  • 窓口となっている担当者と所属部門
  • 既存元請との間で共有されている範囲
  • 同じ発注者から別案件の相談を受けた場合の扱い

この一覧があれば、「既存元請経由の案件」と「自社が独自に開拓した案件」を説明しやすくなります。口頭の記憶だけで管理すると、担当者が変わったときに認識のずれが起こりやすいため、接点の履歴も残しておくことが大切です。

2.新規候補を施工内容と商流上の立ち位置で分ける

候補企業を抽出するときは、「電気通信工事を扱っている」「売上が伸びている」といった条件だけでは足りません。次の軸で優先順位をつけます。

  1. 自社の施工実績をそのまま生かせるか
  2. 現在より上位の立ち位置へ近づけるか
  3. 既存元請と案件が競合する可能性はあるか
  4. 関西圏で施工会社を新たに必要としているか
  5. 継続的な案件量が見込めるか

同じ階層の会社は、繁閑差を補う受注先として意味があります。一方、単価や立ち位置を変えたいなら、データセンターの上位会社や、関西に施工体制を十分持っていない域外企業など、別の商流を持つ対象も並行して探す必要があります。

案件量を増やす営業先と、商流上の立ち位置を変える営業先を分けて管理すると、特定ルートへの依存を下げやすくなります。

3.同じ発注会社へ接触するときは競合しない入口を選ぶ

既存元請の上位にいる会社と接点を持つ場合は、現在の案件を奪う形に見えない入口を選びます。具体的には、次のような切り分けです。

  • 現在とは別のデータセンター案件
  • 既存窓口とは異なる事業部門
  • 既存元請が施工を担っていないエリア
  • 自社が独自に紹介を受けた案件
  • 新設された関西拠点や調達窓口

接点を持った時点で、既存案件との関係を社内で確認します。直接相談を受けても、その場ですぐ受注を約束するのではなく、「現在の案件との関係を確認したうえで回答します」と一度持ち帰る余地を残します。

既存元請への説明が必要な場合は、独立した案件であることを明確にします。「現在ご一緒している案件とは別部門から、自社へ直接相談があった」というように、接点の経緯を事実に沿って伝える形です。

4.営業対象を複数のルートへ分散する

一社の上位発注会社だけを狙うと、直接接点を得られても新たな依存先が一社増えるだけです。候補先は、少なくとも次のように複数群へ分けます。

  • 既存事業の受注量を補う会社
  • データセンター案件を持つ会社
  • 関西事業所を持つ域外企業
  • 発注者側の工事会社選定に関わる会社

候補数を広げた後は、すべてへ一斉に連絡するのではなく、既存商流との競合可能性、自社実績との相性、担当者へ届く可能性から優先順位をつけます。

5.接触後の情報を残し、早めに関係をつくる

建設業の新規取引は、初回面談ですぐ案件になるとは限りません。どの会社へ、いつ、誰が、何を伝え、どの案件について話したかを記録し、次の連絡時期まで決めておきます。

管理項目は複雑でなくても構いません。

  • 接触日と窓口
  • 相手が扱う案件領域
  • 既存取引先との重複
  • 紹介した施工実績
  • 相手の反応
  • 次回の連絡時期と確認事項

データセンターのように施工会社の体制が固まり切っていない市場では、案件が確定してから営業するより、発注会社が協力会社を探している段階で接点を持つほうが動きやすくなります。ただし、早さだけを優先せず、既存商流との関係確認をセットで行うことが前提です。

早期の関係構築と既存ルートへの配慮は、どちらか一方ではなく、案件情報を管理することで両立できます。

まとめ

特定の元請に囲い込まれないために必要なのは、既存元請を避けることではありません。現在の関係を大切にしながら、別の入口を計画的につくることです。

整理の順番は次のとおりです。

  1. 既存案件の商流と接点の経路を案件単位で整理する
  2. 営業候補を施工内容だけでなく、商流上の立ち位置で評価する
  3. 同じ発注会社なら、別案件・別部門・別エリアから接点をつくる
  4. 営業対象を複数のルートへ分散する
  5. 接触履歴と案件情報を残し、既存元請への説明に備える

「誰と取引するか」だけでなく、「どの案件で、どの経路からつながったか」を明確にすることで、既存元請との関係を守りながら直接接点を増やしやすくなります。

取引先の分散は、付き合う会社を増やすことではなく、自社で選べる商流を増やすことです。

自社の商流と次に開拓すべきルートを整理したい方へ

「上位会社と直接つながりたいが、既存元請との関係が気になる」「候補企業は出せても、どこから接触すべきか判断できない」という段階では、まず既存案件の商流と営業先の優先順位を一緒に整理する方法があります。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の販路拡大をはじめ、現場、採用、組織、原価管理、デジタル活用まで経営課題を横断して整理し、実行まで支援しています。自社の場合は何から確認すべきか、まだ明確でなくても問題ありません。無理に営業を進めることはありませんので、状況の整理先として気軽にお声がけください。

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