新人が仕事を覚えるまでに数年かかる、関東圏の小規模な専門工事会社
採用の必要性は感じていても、人を増やせばすぐに仕事を増やせるわけではない。 関東圏を主な市場とする、ある小規模な専門工事会社が抱えていたのは、この難しさでした。
既存社員の高齢化が進み、60代後半に差しかかる社員もいます。ただ、数年以内に社員が一斉に退職すると決まっているわけではありません。今の仕事は経験のある社員が支えており、これまではその体制で事業を続けてきました。
一方、この会社の仕事は、同じ作業を繰り返せば覚えられるものではありません。新人は既存社員と一緒に動きながら経験を積む必要があり、仕事を覚えるまでに少なくとも3年ほど、任せられる範囲によってはさらに時間がかかるという認識です。
受注面にも課題があります。仕事を急に大きく増やすことは難しく、売上も減少傾向にあります。採用活動は進めているものの、新人の人件費を支える仕事をどう確保するかまで、同時に考えなければならない状況です。
採用を待つと育成の時間が減り、先に採用すると人件費が増える板挟み
採用と受注拡大は、片方を終えてからもう片方に取りかかりにくい関係です。 採用を先に進めれば、育成中も人件費が発生します。仕事の確保を先に進めれば、その間にベテランが年齢を重ね、新人に教えられる期間が短くなる可能性があります。
経営者の言葉にも、その両方が表れていました。
「採用したら経費は増える。ただ、採用しないと困る」
ここで押さえたいのは、人が必要な理由です。この会社は、目の前に取り切れない仕事が大量にあるから採用したい、という状況ではありません。今の社員が高齢化するなかで、将来も施工を続けられる体制をつくるために採用が必要なのです。
そのため、現在の仕事量だけを見て「まだ人を増やさなくても回る」と判断すると、育成に必要な数年が抜け落ちてしまいます。反対に、将来の人手不足だけを見て採用人数を決めると、仕事が増えるまでの費用や、教える社員の負担を見込みにくくなります。
判断したいのは、採用と受注のどちらが大切かではなく、育成に必要な時間を確保しながら、どの程度の採用と受注開拓を進められるかです。
よく働くベテランへの依存と、社長だけでは進め切れない採用・受注開拓
今の仕事を安定して回せるベテランがいることが、後任を迎える判断を難しくしていました。
この会社では、以前も70代のベテランがよく働き、現場を支えていました。その人がいることで仕事が回り、費用面でも助かっていたため、もう一人を迎える判断に踏み切れなかったという振り返りがありました。
これは、単に採用への意識が低かったという話ではありません。既存社員で仕事が回っているときに、すぐには同じ働きができない新人の費用を追加するのは、小規模な会社にとって簡単な判断ではないからです。ただ、その状態が続くほど、経験を引き継ぐために使える時間も少しずつ減っていきます。
さらに、採用と受注開拓を動かす人の不足もありました。過去には求人広告を利用したものの、担当者を置かず、経営者自身が窓口を担ったことで、対応を進め切れなかった経験があります。その後、採用を担当する人の支援で一人を迎えましたが、その人も退職し、継続的な戦力の確保にはつながりませんでした。
受注開拓も、経営者自身の人脈や紹介を中心に進めてきました。面談や紹介の機会があっても、工事が発生する時期と合わなければ受注にはつながりません。協力先との共同営業も動き始めていますが、実際にどの程度の仕事になるかは、これから確かめる段階です。
新人が育つまでの時間と、開拓先から仕事が出るまでの時間は、どちらも必要です。 しかも、その二つを経営者だけで進めようとすると、日々の仕事のなかで手薄になりやすい事情がありました。
指導できる期間から採用時期を逆算し、施工余力に合わせて受注開拓を並行する計画
採用時期は育成期間から逆算し、採用人数と受注の増やし方は施工余力・費用・受注見込みに合わせて決める。 このように判断を分けると、「人か仕事か」という二択から一歩進めます。
同時に進めるといっても、採用と営業を一気に拡大する必要はありません。まずは、次の四つを同じ時間軸で整理することが出発点になります。
- ベテランが指導できる期間:いつまで働く意向があるか、新人と一緒に動いて教えられるか。
- 育成に必要な年数:仕事を覚えるまでに何年かかり、どの範囲まで任せることを目指すか。
- 現在の施工余力:既存の仕事を続けながら、指導と追加の仕事にどこまで対応できるか。
- 受注見込み:現在の仕事に加え、共同営業や新規開拓から、いつ、どの程度の仕事が見込めるか。
採用時期は、退職年齢ではなく指導できる期間から考える
「まだ辞めないだろう」ではなく、「新人が覚えるまで一緒に動けるか」を確認することが大切です。
この会社では、仕事を覚えるまでに少なくとも3年ほど必要とされています。その数年を、ベテランが指導できる期間のなかに収めるには、いつ新人を迎える必要があるのかを考えます。採用活動を始めてもすぐに入社が決まるとは限らないため、募集を始める時期も含めて逆算する必要があります。
年齢だけで引退時期を決めつけるのではなく、本人の就業意向と、教える役割を担えるかを確認することが先です。指導できる期間が育成年数に近いなら、受注拡大の成果を待つ間も、採用の準備や指導担当者の確保は進めておきたいところです。
採用人数は、教えられる人数と費用を支えられる人数から決める
将来不足しそうな人数だけでなく、今の体制で育てられる人数を採用計画に反映します。
新人が既存社員と数年間一緒に動く必要があるなら、採用人数が増えても、その分だけ施工力がすぐに増えるわけではありません。指導する社員も既存の仕事を担っているため、誰が教えるかを決めないまま人数だけを増やすと、育成と施工の両立が難しくなります。
指導担当者を確保したうえで、育成中の人件費をどこまで支えられるかを、現在の仕事と受注見込みに照らして考えます。採用する時期を早める必要があっても、人数まで一度に増やす必要があるとは限りません。採用時期の判断と、採用規模の判断を分けることで、技能の引き継ぎと費用の両方を考えやすくなります。
受注見込みは、面談の数ではなく仕事になる時期まで確かめる
人件費を支える見通しには、接点ができたことと、実際に仕事になることを分けて扱う必要があります。
この会社が進める共同営業も、新しい仕事につながる可能性はありますが、始まった段階で受注が確定しているわけではありません。相手先と会えたかだけでなく、見積もりの依頼があるか、工事がいつ発生するかまで確認すると、採用後の仕事量を考える材料になります。
また、新人を迎えた直後は、指導の時間も必要です。追加の仕事を検討するときは、新人をすぐに一人分の施工力として数えず、既存社員が指導しながら対応できる範囲に合わせます。受注開拓は続けつつ、受ける仕事の量と時期は施工体制に照らして判断する進め方です。
受注開拓の結果を待つ間も、採用・指導の準備は止めない
様子を見る対象と、その間にも進めることを分けると、並行計画が動きやすくなります。
共同営業については、数か月取り組み、見積もりや受注の見込みを確かめて次の方針を考える流れが想定されていました。一方、ベテランの就業意向や育成年数、指導担当者の確認は、その結果を待たずに整理できます。
採用の応募対応や受注開拓まで経営者一人では回らない場合は、協力先や外部支援に任せる範囲も併せて考えます。求人原稿や応募対応、見込み先への接触などを分担し、採用人数や受ける仕事の判断は自社で行うという切り分けです。
この会社では、外部の機会を得ても、その後の対応を進め切れなかった経験がありました。だからこそ、支援を使う場合も、何を任せ、どこから自社が対応するかを先に決めることが、採用と受注開拓を続ける条件になります。
まとめ
ベテランが高齢化する会社では、受注が増えてから採用するという順番だけでは、育成に必要な時間を確保できない場合があります。 一方、仕事の見通しを持たずに人を増やすと、育成期間中の費用を支えることが難しくなります。
まずは、ベテランが教えられる期間と、新人が仕事を覚えるまでの年数を確認し、採用時期を逆算します。そのうえで、現在の施工余力と受注見込みから、採用人数と追加で受ける仕事の量を考える進め方が現実的です。
採用と受注拡大は、どちらか一方を完了させるのではなく、指導できる時間を確保しながら並行して進める計画にします。 今の仕事が回っているうちに、その仕事を次の人へ引き継ぐ準備を始めることが、将来も施工を続けられる体制につながります。
採用時期と受注計画を、自社の施工体制から整理するために
「うちの場合、いつ採用を始め、どの程度の仕事を増やせばよいか」という段階から整理できます。 ベテランの就業意向、育成に必要な年数、現在の仕事量を並べてみるだけでも、先に決めたいことが見えやすくなります。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。採用だけ、受注開拓だけを切り離すのではなく、教えられる体制と仕事の見通しを踏まえ、社内で担うことと外部に任せることを一緒に考えます。
何から整理すればよいかわからない段階でも、ご相談いただけます。無理にサービスの導入をお勧めすることはありませんので、自社に合う進め方を考える整理先としてご活用ください。