大規模修繕の塗装工事を担いながら、大手元請けとの直接取引を増やしている20名弱の専門工事会社
千葉県に拠点を置く、20名弱の専門工事会社があります。主力はマンションやビルの大規模修繕です。塗装を中心に、防水、シーリング、下地補修、洗浄、タイル工事まで対応しています。
現場の約9割は東京都と神奈川県です。売上は4億円台まで伸び、次の成長に向けて元請け開拓を進めています。毎月3〜4件ほど営業先と打ち合わせを行い、売上数十億円から数百億円規模の建設会社とも直接契約を結んできました。
ところが、契約先が増えても、期待したほど仕事が増えないケースがありました。
「大きい会社と直接契約できても、仕事が来るとは限らないんですよ」
背景にあったのは、営業力の不足ではありません。自社が受けたい工事と、元請けの発注方式が合っていないことでした。
直接契約まで進んでも、塗装だけの分離発注がなければ受注につながらない現実
大手元請けと直接契約できると、継続的に案件が来るように感じます。しかし、協力会社として契約できることと、自社に合う工事が発注されることは別です。
この会社が直面したのは、塗装工事だけを切り出す「分離発注」が少ないという問題でした。
「契約は結べても、『足場から全部まとめて受けてください』となるんです」
元請けによっては、足場、下地、防水、塗装などを個別に発注せず、一式で任せる方針を採っています。その場合、施工だけでなく、現場全体を管理する現場代理人の配置も求められます。
同社には職人がそろい、複数工種への対応力もあります。一方、現場代理人として動ける人材は2名ほどで、すでに別の現場を抱えています。
「代理人は何人いますかと聞かれて、2人ですと答えると、『もう埋まっていますよね。また連絡します』で止まってしまいます」
つまり、施工力があっても、元請けが求める受注体制とは噛み合っていませんでした。取引先開拓で見るべきなのは契約できるかどうかではなく、契約後に自社の体制で受けられる発注があるかどうかです。
元請けの一括発注と専門工事会社の受注体制にある構造的なずれ
元請けが一括発注を選ぶのには、元請け側の事情があります。
「足場はこの会社、塗装はこの会社、防水は別の会社と分けるのは、発注する側も手間なんだと思います」
発注先が増えれば、見積もり、工程、品質、安全、支払いなどの管理も増えます。そのため、複数工種をまとめて任せられ、現場代理人まで配置できる会社を優先するのは自然な判断です。
一方、専門工事会社から見れば、塗装だけを分離してもらえれば十分に対応できる案件でも、一式受注と現場管理が条件になると受けにくくなります。
実際、この会社が受注できた元請けでは、足場と現場代理人を元請け側が用意し、塗装工事を分離していました。複数社による見積もりの中で、提示額が予定予算に近かったことも受注につながりました。
反対に、直接契約まで進んだ別の元請けでは、塗装だけの発注実績がほとんどなく、仕事が動きませんでした。
経営者の言葉が、取引先選びの本質をよく表しています。
「売上の大きい会社だからよいとは思っていません。売上10億円規模でも、塗装だけを分離して継続的に出してくれる会社のほうが、うちには合っています」
元請けの企業規模と、自社にとっての受注可能性は比例しません。発注方式、管理体制、工種の切り分け方まで見て初めて、相性を判断できます。
分離発注、現場代理人、対応工種、案件規模の4点で営業先を選ぶ進め方
取引先開拓では、知名度や売上高だけで候補を並べず、「自社が継続的に受けられる条件がそろっているか」を先に確認することが大切です。
判断軸は、次の4点に整理できます。
1.塗装などの専門工事を分離発注しているか
最初に確認したいのは、過去の発注実績です。「対応できます」と伝えるだけでは、元請けの発注方式までは分かりません。
営業先との打ち合わせでは、次のように具体的に確認します。
- 塗装工事だけを分離して発注した実績があるか
- 大規模修繕は一式発注が基本なのか
- 案件によって分離発注と一式発注を使い分けているか
- 分離発注の場合、どの工種を切り出すことが多いか
「協力会社を募集しているか」よりも、「どの単位で工事を発注しているか」を聞くほうが、実際の受注可能性を判断しやすくなります。
2.現場代理人を誰が用意するのか
次に確認するのは、現場管理の責任範囲です。
- 元請け側が現場代理人を配置するのか
- 専門工事会社側に配置を求めるのか
- 常駐が必要なのか、複数現場を兼任できるのか
- 必要な資格や経験は何か
現場代理人を元請け側が用意する案件なら、施工班を中心とする会社でも受注しやすくなります。反対に、自社で代理人を置くことが必須なら、現在の管理人材の人数と稼働状況を踏まえて判断する必要があります。
将来、施工管理人材を採用できれば、一式受注を行う元請けも候補になります。営業先の選定条件は固定せず、自社の管理体制が変わるたびに見直すのが現実的です。
3.求められる工種が自社の対応範囲と合うか
「一式」といっても、その範囲は元請けによって異なります。
塗装、防水、シーリング、下地補修、洗浄、タイルまで対応できる会社であれば、足場や現場管理を元請け側が担う案件とは相性がよい可能性があります。一方、足場から管理まで一括で求められる案件は、施工できる工種が多くても受注が難しくなります。
自社ができる工事を並べるだけでなく、次の3つに分けておくと話が早くなります。
- 自社だけで完結できる工種
- 協力会社と組めば対応できる工種
- 現時点では受けにくい管理業務
対応工種の広さだけでなく、どこまで自社が責任を持てるかを明確にすることが、無理のない受注につながります。
4.案件規模と発注頻度が自社の体制に合うか
大型案件が1件あることより、自社の職人数や協力会社網で無理なく回せる案件が継続して出ることのほうが、経営の安定につながる場合があります。
確認したいのは、案件金額だけではありません。
- 対象となる建物や工事の規模
- 年間の発注件数
- 主な施工エリア
- 見積もり依頼から着工までの期間
- 同時期に動く現場数
同社は東京・神奈川を中心に施工し、遠方案件にも対応しています。ただし、出張に出せる人員には限りがあります。案件が大きくても、エリアや工程が合わなければ継続受注は難しくなります。
営業先は、次のように整理できます。
- 分離発注があり、元請けが現場代理人を用意する先
- 条件次第で受注できる先
- 一式受注と代理人配置が前提で、現状では受けにくい先
この整理ができると、会社規模だけで優先順位を決めずに済みます。契約社数ではなく、自社に合う見積もり依頼と受注がどれだけ生まれたかを基準に営業活動を振り返ることも重要です。
まとめ
大手元請けとの直接契約は、販路拡大の大きな一歩です。ただし、契約できたこと自体をゴールにすると、「契約先は増えたのに仕事が来ない」という状態になりやすくなります。
確認したいのは、次の4点です。
- 専門工事の分離発注があるか
- 現場代理人をどちらが用意するか
- 求められる工種と責任範囲が自社に合うか
- 案件規模、頻度、エリアが自社の体制に合うか
よい取引先とは、最も規模の大きい会社ではなく、自社の施工力と管理体制を生かせる形で継続発注してくれる会社です。
元請けごとの発注方式まで確認できれば、営業にかける時間も、契約後の動き方も変わります。まずは既存の契約先と新しい候補先を、同じ判断軸で整理するところから始めると進めやすくなります。
自社に合う元請けの条件を整理したいときに
「どの元請けを優先すべきか分からない」「直接契約は増えたが、継続受注につながらない」という段階では、営業先の数を増やす前に、発注方式と自社体制の相性を整理することが有効です。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、販路拡大、現場体制、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。元請け候補の選定条件や、営業先ごとの優先順位を整理したいという段階でもご相談いただけます。
無理にサービスをおすすめすることはありません。自社の場合は何から確認すべきかを整理する場として、気軽にご活用ください。