元請けで年商1億円前後を築き、次代への交代を控える少人数の工務店
元請けで利益を残してきた会社でも、その仕事の進め方まで後継者に引き継げるとは限りません。 首都圏郊外で住宅改修を手がける、6名程度のある工務店では、代表交代を前に受注構成の見直しが進んでいました。
現在の仕事はリノベーションを含む住宅改修が中心で、年商は1億円前後です。元請けが受注の8割以上を占め、以前からのお客様のリピートや紹介、複数の住宅工事紹介サイトを通じて仕事を受けています。設計事務所との継続的な取引もありますが、現状では受注全体の一部です。
現経営者は、もともと大工として現場に立ち、現在は設計・積算を中心に担っています。お客様との打ち合わせは、現場にも出る専務とともに対応していますが、内勤業務の多くは社長が引き受けています。
次を担う予定なのは、その専務です。現経営者によれば、後継者は下請けを8割程度に増やし、元請けを一部残す形を考えているといいます。
「今とは逆に、下請けを中心にして、元請けをその中に少し残したいみたいです」
会社を大きくしたいという相談ではありません。現経営者は、人数に見合う仕事だけを受け、無理に受注を増やす考えは持っていません。焦点は、今の規模を守ることではなく、次の経営者が利益を残しながら続けられる受注の形を選ぶことにあります。
利益を残せる元請けと、施工に集中できる下請けの間にある方針の違い
両者の違いは、元請けと下請けの好みというより、「何をもって経営の効率がよいと考えるか」の違いです。 現経営者は利益の残り方を重視し、後継者は営業や顧客対応を含めた仕事全体の負担を見ているようです。
現経営者には、下請けを中心にしていた時期の経験があります。
「前は下請けもよくやりましたけど、ほとんど儲からなかったので、元請けを中心にしました」
当時は売上にも限界があり、収支がトントンならよいほうだったと振り返ります。一方、現在は人件費などを差し引いた後にも利益が残っており、元請け中心にしたことが収益の確保につながったという実感があります。下請け中心へ戻すことに慎重になるのは、こうした経緯があるためです。
ただ、後継者が目指しているとされる姿は、必ずしも売上の維持ではありません。
「売上が少なくても、5千万円前後で2割ぐらい残るほうがいい、という感じなんです」
これは現経営者が説明した後継者の考えであり、下請けでその利益率を実現できると確認されたわけではありません。それでも、売上を小さくしても必要な利益を確保し、負担を抑えたいという方向性は読み取れます。
ここで分けて考えたいのは、「下請けに変えたい」という受注上の方針と、「営業・顧客対応の負担を減らし、施工に集中したい」という働き方の希望です。前者だけを決めても、後者が実現するとは限りません。逆に、元請けの利益率だけを見ても、そのために経営者がどれだけ働いているかは見えません。
社長に集中する設計・積算と、施工力を評価される後継者
方針転換の背景には、現経営者の長時間労働と、後継者が施工で力を発揮できる取引先の存在があります。 単に営業を避けたいという話だけでは捉えきれません。
現経営者は、設計・積算などの仕事が重なると、徹夜で対応することもあったと話しています。睡眠を削る働き方が続き、体調を崩した経験もありました。
「非常に苦労しているのを見ているから、あまり無理をした仕事はしない、という方向に行くみたいです」
現経営者が仕事に強い意欲を持っていることと、後継者が同じ働き方を選べることは別です。現在の利益が社長の長い労働時間によって支えられているなら、利益率の数字だけでは承継後の姿を判断しにくくなります。
一方で、後継者の施工能力については、現経営者も高く評価しています。
「スピードは速いし、仕上げはよい。自分が現役のときより上です」
過去に施工した住宅改修の取引先からも、工期を守り、きれいに仕上げる点を評価され、継続的な協力を求められているといいます。後継者は、その取引先と、以前から付き合いのある設計事務所の2社を軸に仕事を回す考えのようです。新しい元請け企業を次々と開拓する構想ではありません。
ただし、施工力への評価や協力の打診は、年間の受注量や利益額が確定していることとは別です。 過去の下請けと今後想定する仕事では、施工する人の能力も取引先も異なります。「以前は儲からなかったから難しい」とも、「今は評価されているから大丈夫」とも、まだ言い切れない段階です。
加えて、承継に向けた話し合いは、日々の現場打ち合わせの合間に少しずつ行われていました。
「顔を合わせても、現場の打ち合わせや段取りでほとんど手いっぱいです」
後継者の意向には、現経営者の理解や推測も含まれています。受注構成を固める前に、本人が何を減らし、何を残したいのかを直接確かめる余地があります。
後継者の意向と2社の受注見込みを、利益額と労働時間で比べる進め方
元請けか下請けかを先に決めるのではなく、「必要な利益額を、誰がどれだけ働いて確保するか」をそろえて比べることが出発点です。 そのうえで、既存取引先から見込める仕事と、承継後に担える業務の範囲を重ねていきます。
まずは後継者本人と、減らしたい負担の確認
最初に設けたいのは、現場の段取りとは分けて、承継後の仕事の持ち方を話す時間です。「下請けを増やす」という結論だけでなく、その理由を本人の言葉で確認します。
確認したいのは、新しいお客様への営業を減らしたいのか、設計・積算を担うことが難しいのか、それとも施工に充てる時間を増やしたいのかという違いです。あわせて、元請けを一部残したい理由も確かめます。
減らしたい業務が明確になると、元請けをどこまで残せるかも考えやすくなります。 現経営者が説明した意向を出発点にしつつ、本人の方針として確認することが大切です。
売上や利益率ではなく、利益額と働く時間の比較
収支の比較では、現在と承継後で「利益」に含めるものをそろえます。現在の説明には、人件費などを引いた後の利益という意味合いがありました。将来の目標も同じ範囲の費用を差し引いて比べなければ、数字の見え方が変わってしまいます。
年商5千万円で利益率2割なら、単純計算の利益額は1千万円です。ただし、これは目標の計算であって、下請け中心にすれば実現するという意味ではありません。
比較する項目は、次のようにそろえると整理しやすくなります。
- 元請け・下請けそれぞれで見込める年間売上と、費用を差し引いた利益額
- 設計・積算・営業・顧客対応に使う、経営者と後継者の時間
- 後継者が施工に入れる時間と、その時間内でこなせる仕事量
- 承継後に現経営者が担当する業務と、そのために必要な時間
判断したいのは、売上が下がるかどうかだけではありません。必要な利益額を確保しながら、現経営者の徹夜や、後継者の無理な施工量を前提にしない形になるかです。
施工力への評価と、実際に受けられる仕事量の照合
既存2社を軸にするなら、新規開拓を急ぐより、まずその2社からの受注見込みを具体化する順番が合っています。
継続的にどの程度の仕事を任せてもらえるのか、どの範囲を施工するのか、後継者の施工能力を踏まえてどれだけ受けられるのかを確認します。設計事務所から現在受けている仕事も、今の受注実績と今後増える見込みを分けて整理します。
ここでは、年間売上の合計だけでなく、限られた人数で対応できる量かを見る必要があります。後継者の施工が速くても、必要な利益を残すために受ける量が増えすぎれば、働き方を変える目的から離れてしまうためです。
「仕事を頼みたいと言われている量」「実際に発注が見込める量」「無理なく施工できる量」を分けることが、下請け中心の収支を判断する土台になります。 その数字を置いてから、元請けをどれだけ残す必要があるかを考えます。
受注構成と並行した、資格・許可・設計事務所の確認
承継後に受けられる仕事の範囲は、収支と同時に確認したい事項です。現経営者は複数の建築関連資格を持つ一方、後継者の資格は限られており、建設業許可や設計事務所をそのまま維持できるかを懸念していました。既存会社を継ぐのではなく、新たな会社を設ける方向も考えられています。
ただし、後継者本人の資格の有無だけで、許可や登録の継続可否を決めつけることはできません。既存会社を継続する場合と新会社を設ける場合を分け、実際の体制をもとに、所管窓口などで必要な要件と手続きを確認します。
現経営者は、代表を退いた後も助言する立場で関わる意向です。その関わりについても、相談役としての助言なのか、設計・積算などの実務を担うのかを分けておく必要があります。
代表の肩書きを交代しても、設計・積算の負担が現経営者に残ったままなら、働き方の承継は終わっていません。 誰が何を担えるかまで確認して、受注構成と整合させていきます。
まとめ
元請け中心から下請け中心への転換は、利益率の優劣ではなく、利益額・労働時間・施工能力・受注見込みを合わせて判断するテーマです。 現経営者には元請けで利益を確保してきた経験があり、後継者には施工に集中して力を発揮できる可能性があります。どちらかを否定する必要はありません。
まずは後継者本人の意向を確認し、既存2社から見込める仕事量と収支を整理します。そのうえで、必要な利益を残すために元請けをどれだけ持つか、現経営者がどこまで実務を担うかを決めていく流れです。資格・許可・設計事務所の要件確認も、その判断と並行して進めます。
受注比率は、最初に守るべき数字ではなく、検討の結果として決まるものです。引き継ぐのは今の売上構成そのものではなく、次の担い手が無理なく利益を残せる仕事の持ち方と考えると、話し合うべきことが見えてきます。
承継後の受注構成を整理したいときに
「うちの場合、元請けをどこまで残せばよいか」という段階から、整理を始められます。 後継者との希望の違い、既存取引先からの受注見込み、設計・積算を含む役割分担を並べるだけでも、次に確かめることが明確になります。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。承継に伴う受注構成についても、取引先を増やすことを前提にせず、現在の仕事と担い手に合う形を一緒に考えます。
何から整理すべきかわからない段階でもご相談いただけます。無理にサービスの利用をお勧めすることはありませんので、自社の判断材料を整える場としてご活用ください。