機器販売と通信工事を、経営者と営業責任者で分担する25名規模の会社
社長の仕事を丸ごと代わる人がいなくても、専門領域を分けて会社を動かす体制は考えられます。 兵庫県に拠点を置く、従業員25名ほど、売上8億円規模のある会社では、経営者が経営と工事を、営業責任者が営業とネット通販を担っています。
同社は機器販売を軸に、通信設備の設計・施工管理などを手がけています。無線LANや防犯カメラの工事では、経営者自身が構成や設計を考え、施工は協力会社に依頼する形です。工事の人数をそろえるだけではなく、顧客の要望を受けて、何をどう設置すればよいかを考える部分に強みがあります。
一方、営業や通販については、それを専門とする責任者が担当しています。両者は長年一緒に仕事をしてきた間柄ですが、同じ仕事を二人で幅広く抱えるのではなく、それぞれが深く理解している領域を受け持っています。
この会社の実践は、社長と同じことができる人を探すことと、社長がすべてを抱えなくてもよい体制をつくることは、分けて考えられると示しています。
「社長の代わり」という広い期待では定まらない仕事と立場
右腕に求めるものが広いままだと、何ができれば任せられるのか、社内でどこまで判断してよいのかが曖昧になります。 能力のある人を迎えることと、その人が力を発揮できる役割を用意することは、別の整理が必要です。
相談の中で経営者が気にしていたのは、外から人を迎えれば、そのまま社長の仕事を幅広く担ってもらえるのかという点でした。仕事ができるかどうかだけでなく、社長との関係や、既存社員から見た立場への懸念もありました。
たとえば、社長が期待して迎えた人であっても、何を担当するために来たのかが周囲に伝わらなければ、役割よりも「社長に呼ばれた人」という関係が前に出てしまうことがあります。相談者が指摘していたのは、そうした社内での受け止められ方の難しさです。
これは、外部人材には任せられないという話ではありません。内部で育った人でも、社長の仕事をどこまで引き受けるのかが決まっていなければ、任せる範囲は定まりません。
右腕という呼び方に、工事の判断、営業、経営の理解、社内の調整まで含めてしまうと、人材に対する期待が大きくなります。まず必要なのは、その期待を仕事の単位にほどくことです。
長年の協働を支える、工事と営業の専門性の違い
同社の分担を支えているのは、長い付き合いだけではなく、互いに専門領域が異なることです。 営業責任者が経営者の仕事を全面的に代替しているわけではありません。
経営者は、電気・通信分野の経験を重ね、防犯カメラやネットワークの設計、工事の進め方を詳しく説明できます。営業責任者にも営業やシステムに関する知識がありますが、工事を経営者と同じ深さで担っているわけではありません。また、営業責任者は、経営者になることを目指して役割を広げているわけでもありません。
それでも会社が動くのは、営業側が受けた仕事について、工事側が設計し、必要な費用を示せるからです。経営者は、その方法であればどの程度の費用がかかるのかを伝え、営業側は自分の担当領域で売上をつくります。
ここでは、役割を分けることと、互いに関わらないことは同じではありません。資金管理のように両者に関係する事項は話し合い、書類を通じて内容を精査しています。経営者自身も、話し合いはかなり行うと説明していました。
つまり、専門領域は分け、会社全体に影響する部分は一緒に判断するという組み合わせです。社長の分身がいるから任せられるのではなく、違う強みを持つ人同士でも仕事がつながる形になっています。
経営・工事と営業の境界から始める、任せる範囲の整理
右腕候補を探す前に、社長に残す仕事、相手が担う仕事、双方で判断する仕事を分けることが出発点です。 同社の実践をそのまま再現する必要はありませんが、任せ方を考える順序は参考になります。
社長と同じ能力ではなく、担当領域に必要な専門性で考える
任せる相手を見るときは、社長の仕事全体をどれだけ代わってもらえるかではなく、切り出した領域を担えるかを判断軸にします。
同社であれば、経営者が経営と工事を担い、営業責任者が営業と通販を担っています。営業責任者に工事設計まで同じ深さで求めず、経営者も営業の実務をすべて自分の仕事として抱えてはいません。
自社に置き換える際も、まず現在の仕事を、次の三つに分けて整理すると考えやすくなります。
- 社長が専門性を持ち、引き続き判断を担う仕事
- 相手の専門性を生かして、担当を任せる仕事
- 資金管理など、双方に関わるため話し合って決める仕事
この整理では、担当の名前だけでなく、どこまでをその人の役割とするかも確認します。人材を迎える場合も、育てる場合も、「右腕になってほしい」より「この領域を担ってほしい」のほうが、期待を具体的に共有できます。
費用と売上目標をつなぎ、任せる目的を共有する
任せる範囲を決めたら、その仕事に必要な費用と、求める売上をつなげて伝えます。同社では経営者が、どれだけ費用がかかり、その費用で何ができるのかを示したうえで、必要な売上を営業責任者に伝えています。
単に売上目標だけを渡すのではなく、その数字が必要な理由も共有している点が重要です。営業側にとっては、自分の仕事が会社の運営とどう結びついているのかを理解する材料になります。
工事についても、営業側が受けた案件を経営者が設計し、方法と費用を示しています。営業と工事の担当を分けても、工事に必要な判断まで営業側へ移しているわけではありません。
任せる範囲を選ぶ際は、相手が専門性を持って担える部分と、社長側の判断が必要な部分を混同しないことが大切です。仕事を分けると同時に、相手が仕事を進めるために社長から何を渡す必要があるかも整理します。
書類で内容を確認し、資金管理は話し合う
任せた仕事は、内容を確認できる形にしておくことで、分担を続けやすくなります。同社では書類を通じて内容を精査し、必要な点を互いに確認しています。
自社で整理する際も、少なくとも、何をするのか、どの程度の費用が必要なのか、どれだけの売上を目指すのかが、同じ資料の中で追えるかを確認するとよいでしょう。これは書類を増やすためではなく、担当者と社長が同じ内容を見て判断するためです。
また、資金管理のように両者の担当領域へ影響する事項は、一方に任せきるのではなく、話し合う対象として残します。担当を分けても、会社のお金は別々になるわけではないためです。
すべてを社長が決める状態から離れるには、任せる事項だけでなく、一緒に決める事項も明確にする必要があります。 分担と対話を両立させることが、任せた後の運営を支えます。
まとめ
右腕が見つからないときは、人の条件を増やすより先に、任せたい仕事の範囲を見直すことが有効です。 社長と同じ能力や経験を幅広く求めなくても、異なる専門性を組み合わせる体制は考えられます。
同社では、経営者が経営・工事、営業責任者が営業・通販を担い、必要な費用と売上目標を共有しています。書類で内容を確認し、資金管理など双方に関わることは話し合っています。
次の一手は、社長に残す仕事、相手に任せる仕事、共同で判断する仕事を書き分けることです。そのうえで、任せる相手にどの専門性が必要かを考えれば、採用・育成・外部人材の活用も、役割に合うかという基準で検討しやすくなります。
社長に残す仕事と、任せる仕事を整理するために
「誰を右腕にするか」が決まっていなくても、「何をどう任せたいか」の整理から始められます。 工事の判断は自分に残したい一方、営業は任せたいなど、担当領域によって考え方が違っていても構いません。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。役割分担の整理や、専門性に応じた外部人材・顧問の活用も含め、自社に合う任せ方を一緒に考えます。
うちの場合はどこから分ければよいのか、という段階でもご相談いただけます。無理にサービスの利用をお勧めすることはありませんので、次の整理先としてご活用ください。