住宅工事の取引先別に二つのチームを持つ、社長・会長・相談役が関わる建設会社
今回の相談は、仕事への不満よりも「誰の指示で動けばよいかわからない」という迷いが大きくなっていた建設会社のケースです。
住宅工事に長年携わってきた、ある建設会社には、主な取引先ごとに二つのチームがありました。経営には社長・会長・相談役が関わり、それぞれが社員や職人との関係を築いてきました。
社員面談では、現場担当者からも事務担当者からも、会社への愛着や、今の仕事に大きな不満はないという声が多く聞かれました。一方で、一人から進めるように言われたことを、別の一人から止められるなど、経営陣の指示が一致しないことへの戸惑いがありました。
取引先別のチームには違いもありました。社長を中心に動く側では比較的まとまりがある一方、もう一方では、誰の判断を優先するかが見えにくくなっていたのです。同じ会社の中でも、指揮命令系統の明確さに差がありました。
ここで整理したいのは、誰が正しいかという個人間の問題ではありません。複数の役員が関わりながらも、現場が一つの方針で動ける状態をどうつくるかが主題です。
経営陣の異なる指示を、現場と事務担当者が調整する状態
指示の食い違いで困るのは、最終的な判断を任されていない社員が、実質的に経営陣の間を調整することです。
この会社では、社員から「誰の言うことを聞いていいのかわからない」という声が出ていました。一方の指示に従えば、もう一方の指示とは合わなくなるため、仕事の内容がわかっていても、会社としてどう進めるべきかを決められません。
その影響は現場だけにとどまりませんでした。業務への支障や工期の遅れが事務担当者の仕事にも波及し、不満につながっていることが社員面談で報告されていました。指示を出した側だけでは、こうした周囲への影響が見えにくい面もあります。
さらに、社員の中には特定の役員の指示なら受け入れるという姿勢や、経営陣の問題には関わらず、自分の仕事だけをしておきたいという姿勢も見られました。
これは、単に社員同士の会話を増やせば解消する問題ではありません。誰が決め、その決定を誰が現場に伝えるのかが曖昧なままでは、社員に協力を求めても、判断の迷いは残ります。
取引先ごとの縦のつながりと、役員同士の暗黙の補完関係
背景にあったのは、取引先別に仕事がまとまる構造と、役員同士の支え合いが明確な役割として共有されていなかったことです。
この会社では、取引先別のチーム内で仕事を進めることが多く、横のつながりが弱くなっていました。各チームがそれぞれの経営陣との関係で動くと、全社としての方針や責任者が見えにくくなります。
ただし、取引先別にチームを分けること自体が問題なのではありません。それぞれの取引先への対応を担う責任者がいても、両方をまとめる最終決定者が明確であれば、会社としての判断をそろえられます。この会社では、その関係が社員から見えにくい状態でした。
また、経営陣の説明からは、以前はそれぞれの得意・不得意を別の役員が補っていたという認識も示されました。職人との関係づくり、取引先への対応、現場管理などを、表に見えない支援によって成り立たせていた面があったのです。
その補完関係が変わった後も、誰が何を引き受けるかが十分に整理されていなければ、以前と同じようには動けません。過去を評価する声と、今の取引を維持するために体制を変えたいという声が、すれ違いやすくなります。
担当変更に対する認識にも隔たりがありました。社員側には以前の体制を支持する声がある一方、経営陣からは、取引先の要求に対応するための変更だったという説明がありました。どちらかの説明だけで、経緯を断定することはできません。
過去の評価を一致させることと、これからの指揮命令系統を決めることは、分けて扱う必要があります。過去への受け止めが違っていても、会社を続けるために誰が何を担うかは、具体的に協議できるからです。
組織図をたたき台に、個別面談と全体協議で決定と支援を分ける進め方
整える順番は、経営陣の考えを確認し、今後の組織図を描き、関係する役員の間で役割を合意することです。「よく話し合う」だけでは、何を決めれば終わるのかが曖昧になります。話し合いの対象を、具体的な配置と指示の流れに絞ることが出発点です。
まず、社長と会長で今後の体制案を具体化する
この相談で次に整理すべきものとして挙がったのは、将来を見据えた組織図でした。人をどこに置くかだけでなく、誰に責任を持って任せ、誰が支えるのかを示すものです。
この会社で話し合いの軸となったのは、社長が今後の方針を決め、会長がそれを支援する構図でした。そのうえで、相談役を含む関係者と協議できる体制案を持つ必要があります。社長と会長の間でも方針が固まっていなければ、全体の場で具体的な提案を示しにくいためです。
組織図では、少なくとも次の点を明確にします。
- 二つの取引先別チームをまとめる、業務運営上の最終決定者は誰か
- 各チームの部門責任者を誰にするか
- 社長・会長・相談役は、それぞれどこまでを担当し、どこを支援するか
- 部門責任者だけでは決められない場合、誰に判断を求めるか
組織図の目的は役職を並べることではなく、現場と事務担当者が判断を求める相手を迷わず選べるようにすることです。
部門責任者は、取引先の評価と社内の信頼の両方から考える
責任者の配置には、取引先からの評価だけでなく、社内で指示が通るかという判断軸も必要です。この会社でも、取引先から責任者として期待される人に対して、社内では信頼面を懸念する声がありました。
ここを「取引先の意向だから」で終えると、配置を変えても指示が通らない状態が残ります。一方、社内の反応だけを理由にすれば、取引の継続に必要な体制を組めない可能性もあります。
任せるのであれば、本人に何を求め、どの役員が何を支えるかまで合わせて考えます。現在の力量で任せられるのか、支援を付けて任せるのか、別の配置が必要なのかを分けると、人物への好き嫌いだけではない協議に進めます。
責任者を立てることと、役員が支援することは両立します。ただし、支援する役員が別の指示系統をつくってしまわないよう、役割の境界をそろえることが重要です。
個別に考えを聞いてから、全体で合意する
合意形成は、一度の全体会議で終わらせようとしない進め方が適しています。この相談でも、個別に話を聞き、全体で協議し、必要に応じて再び個別に確認する方法が示されました。
全員がそろうと、過去の発言や経緯の確認に話が戻り、今後の配置まで進まないことがあります。まず個別に、会社をどう続けたいか、自分は何を担えるか、提案された体制のどこに懸念があるかを確認します。その内容を踏まえて、全体の場で組織図と役割を協議します。
直接の話し合いでは進みにくい場合、第三者を進行役に据える方法もあります。役割は誰かの正しさを裁くことではなく、各人の意向を整理し、決めるべき論点に戻すことです。社内では話しにくければ、別の会議場所や、個別に話せるオンラインの場を使う選択肢もあります。
第三者は合意形成を支援できますが、会社としての体制を決めるのは経営陣です。相談役が現場に影響を持つのであれば、その意向を確認せずに社長と会長だけで整えたことにはできません。
話し合いを続ける場合も、次にいつ、どの体制案について協議するかを決めておきます。すべてを一度に解消するのではなく、まず指示の流れを合意するという区切りを持つことで、次の行動につなげやすくなります。
まとめ
現場が迷わない指揮命令系統は、役員の人数を減らすことではなく、最終決定者・部門責任者・各役員の支援範囲を明確にすることで整えます。
取引先別にチームがある会社では、それぞれの責任者と、全社をまとめる立場を分けて考えることが大切です。これまで役員同士が暗黙に補ってきた仕事も、今後は誰が担うのかを言葉にする必要があります。
最初の一歩は、現場や事務担当者に調整を求めることではありません。経営陣が今後の組織図をたたき台にして、誰が決め、誰が伝え、誰が支えるかを話し合うことです。個別面談と全体協議を組み合わせれば、過去への受け止めを無理にそろえずとも、これからの体制を具体化できます。
社長・会長・相談役の役割を整理するところから
「うちの場合、誰の役割から整理すればよいか」という段階でも、指揮命令系統の見直しは始められます。組織図がない場合だけでなく、図はあっても実際の指示の流れと合っていない場合も、整理の対象です。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。役員ごとの意向の確認や、部門責任者の配置、第三者を交えた話し合いの進め方など、会社の状況に合わせて次の一手を一緒に考えます。
無理な営業は行いません。まずは、指示が食い違っている状況や、経営陣だけでは整理しにくい点をお聞かせください。