既存顧客からの紹介で仕事を受け、採用を進めている専門工事会社
既存の仕事があり、人員を増やす方向で動いていても、新規案件を上乗せできる施工体制が整っているとは限りません。 電気・通信設備まわりの工事を手がける、ある専門工事会社も、その間にある会社でした。
継続的に取引のある顧客は8社ほどで、仕事は主に既存顧客からの紹介で受けています。最大の取引先は年間売上が1,800万円前後、次の取引先になると300万円台まで下がる構成です。粗利率は案件によって異なり、経営者の感覚では「ざっくり2割か、それを少し下回るくらい」でした。
採用には取り組んでいますが、現時点で動ける人数は大きく変わっていません。そのため、新しい取引先を開拓しても、既存の仕事とは別に施工できるとは限らない状況です。
経営者は、新規開拓そのものには前向きでした。ただ、営業に費用をかけるなら、その費用を上回る利益が必要です。「それだけの利益を出せるとは、今はちょっと想像がつかない」という言葉には、単なる費用への抵抗ではなく、受注後に誰が施工するのかという現実的な問いがありました。
同じ人数で新規案件を受けると、既存案件の減少分まで含めた粗利の確認が必要
施工人数が変わらない場合、新規受注は売上の上積みではなく、既存案件との入れ替えになる可能性があります。 この違いを分けないまま営業の効果を見積もると、新しい仕事で得られる粗利を、そのまま会社全体の利益増と捉えてしまいます。
経営者が気にしていたのは、まさにこの点です。
「動く人数は一緒なので、新規で取った仕事に入れ替えても、既存の分が減る。そう考えると、ちょっときついのかなと思います」
新規案件で粗利が生まれても、その施工のために既存案件を減らせば、そこで得ていた粗利も減ります。営業強化の効果は、新規案件だけを切り出すのではなく、入れ替え前後の差で見る必要があります。
判断の基本は、次の整理です。
営業強化による利益の増加分は、「新規案件で得る粗利-減らす既存案件の粗利-追加の営業費用」で考えます。
既存案件を減らさずに対応できるなら、差し引く既存案件の粗利はありません。一方、同じ人数で仕事を切り替えるなら、新規案件の売上が大きくても、会社に残る増加分は小さいことがあります。
したがって、最初に確認したいのは「いくら受注できるか」だけではありません。「今の体制で追加施工できるのか、それとも何かを減らして受けるのか」です。ここが分かれると、狙う取引先も、営業にかけられる費用も変わります。
大口顧客の取引規模も、採用した人の施工力も、すぐには立ち上がらない状況
営業投資を回収するには、取引先が育つまでの時間と、採用した人が施工に加われるまでの時間を重ねて考える必要があります。 この会社では、最大の取引先と、それ以外の取引先の売上規模に大きな差がありました。
最大の取引先に近い規模の顧客をもう1社開拓できれば、売上への影響は大きくなります。ただし、新しい取引先が、最初から同じ規模で発注してくれるとは限りません。既存の大口顧客との取引は、施工実績と信用の積み重ねによって育ってきたものだからです。
新規開拓でも、接点をつくり、実績を積み、次の発注につなげる時間が必要です。大口顧客との将来の取引額を、そのまま営業開始直後の売上として置くと、利益の見通しが実態より大きくなります。
もう一つの時間軸が、人員の立ち上がりです。営業を強める時期について、経営者が挙げたのは、採用の見込みが立った時点ではありませんでした。
「教育がある程度進んだタイミングですかね」
この言葉が示しているのは、採用人数と、実際に施工へ回せる人数は同じではないということです。入社の予定だけでは、追加案件をどこまで受けられるかは決まりません。教育の進み具合を踏まえ、どの仕事を任せられる状態なのかまで見て、施工余力を判断する必要があります。
営業費用の負担を軽くできたとしても、受ける側の体制が変わらなければ、この問題は残ります。「営業が高いか安いか」と「今、営業を強めるべきか」は、分けて考えたい問いです。
施工余力を確認し、受注の上積みか案件の入れ替えかで営業方針を分ける整理
営業の始めどきは、日付だけで決めるのではなく、施工余力と粗利の増加が見込める条件で決めると整理しやすくなります。 この会社のように採用を進めている場合も、人数が増える予定だけで判断せず、現在の仕事と教育の進捗を起点に考えます。
まずは、次の三つを確認します。
- 施工余力: 既存案件を続けながら追加で施工できるのか、何かを減らさなければ受けられないのか
- 粗利の差: 新規案件で得る粗利は、減らす既存案件の粗利と追加の営業費用を上回るのか
- 立ち上がりの時間: 新規顧客からの発注が育つ時期と、採用した人が施工に加われる時期は合うのか
この三つを順に整理すると、営業を強める目的がはっきりします。
施工余力がない時期は、受注件数を増やすより、同じ施工体制で粗利が残る取引への入れ替えが成立するかを確認します。 既存の仕事を減らしてまで受けるなら、比較する相手は「新規案件の売上」ではなく、「現在の仕事から得ている粗利」です。
対話では、商流が浅い取引なら、利益率の改善が見込める可能性も挙がっていました。ただし、商流が浅いことだけで、利益が増えるとは決まりません。実際の受注条件でどれだけ粗利が残り、同じ施工体制で対応できるのかまで確認することが大切です。
その際は、粗利率だけでなく粗利額も見ます。率が高くても取引規模が小さければ、追加の営業費用を賄えるとは限りません。また、既存案件を減らす判断には、目先の粗利だけでなく、その取引先から定期的に発注を受けられる価値も含めます。
教育が進み、追加施工できる見通しが立った段階では、案件の入れ替えではなく受注の上積みを目的に営業を強めます。 ここでは、採用の予定ではなく、教育の進捗から「いつ、どの仕事に、どれだけ人を回せるか」を確認します。その見通しと、新規顧客から発注を受け始める時期を照らし合わせる進め方です。
一方で、施工体制が整うまで、新規開拓をすべて止める必要はありません。大口顧客との関係づくりには時間がかかるため、取引先との接点づくりと、受注量を増やす営業強化は分けて考えられます。 受けられる量がまだ限られる時期には、将来の取引候補を選び、接点をつくることを中心に据えます。
候補先を選ぶ際は、受注規模に加え、適正な粗利が残るか、定期的な案件が見込めるか、施工実績が次の取引につながるかを確認します。移動距離や施工領域も含め、自社の体制に合う相手を絞ることで、限られた営業活動を、将来受けたい仕事につなげやすくなります。
進める順序は、「教育が終わったら営業」と一律に決めるものではありません。現在は接点づくりにとどめるのか、粗利改善を目的に入れ替えを検討するのか、施工余力を使って上積みを狙うのか。自社がどの段階にいるかに合わせて、営業の目的と強さを変えることがポイントです。
まとめ
人手が増えない会社の営業判断では、新規受注額よりも、会社全体で粗利がいくら増えるかを見ることが大切です。 同じ人数で施工するなら、新規案件の粗利から、減らす既存案件の粗利と追加の営業費用を差し引いて考えます。
商流の違いによる収益性も判断材料ですが、それだけで受注を切り替えるのではなく、実際の粗利額と継続的な発注の見込みまで確認したいところです。
また、採用が進んでいても、営業を強める判断は、教育後にどれだけ施工へ回せるかを踏まえて行います。新しい取引先が育つまでの時間も含めて考えると、接点づくりを先に進めながら、受注量を増やす時期を調整できます。
「今は受注を増やす段階か、仕事を入れ替える段階か、それとも体制を整える段階か」を分けることが、営業の始めどきを考える第一歩です。
自社の施工体制に合う営業の進め方を整理するために
営業を始めるかどうかを決める前に、施工余力と既存案件の粗利を一緒に整理するところから相談できます。 「新しい取引先は欲しいけれど、今の人数で受けられるか分からない」「採用と教育を進めながら、いつ営業を強めるべきか考えたい」という段階でも構いません。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。取引先開拓だけを切り離さず、施工体制と収益性を踏まえ、自社に合う進め方を一緒に考えます。
無理に営業強化を勧めることはありませんので、まずは「うちの場合、何から整理するとよいか」というところから、お気軽にご相談ください。