屋根工事の受注はあるものの、現場対応から離れられない社長の悩み
仕事を取る力はあっても、受注後の現場を任せられなければ、社長は営業に専念できません。 年商8,000万円台のある専門工事会社でも、次に進むための課題は、案件を増やすことより現場を任せる体制づくりにありました。
同社は屋根工事を中心に、ハウスメーカーやリフォーム会社からの依頼に対応しています。直接雇用する社員は少数で、施工の多くは長く付き合う協力会社が担っています。依頼は十分にあり、施工を支えるつながりもあります。
それでも、社長の時間は空きません。現場を確認し、施工方法を判断し、元請けの監督に説明する。その役割が社長に残っているからです。
「僕はもともと営業なので、できれば営業に専念したい」
社長が望んでいるのは、単に現場へ行く回数を減らすことではありません。既存の工事を任せ、仕事を取る活動や新たな事業に時間を使える状態です。同時に、自分が不在でも協力会社を含めた仕事が続く体制をつくりたいという思いもありました。
施工を任せられる職人がいても、元請けへの説明は社長に戻る構造
足りないのは施工の人手だけではなく、技術的な判断を元請けに説明し、納得を得て現場を進める役割です。 職人を増やすことと、社長の右腕をつくることは、重なる部分があっても同じではありません。
同社では、社長が職人に施工方法を確認したうえで、元請けに説明する場面があります。現場の職人に技術がないわけではありません。それでも、職人からの説明では納得してもらえず、社長が伝えると話が進むことがあるといいます。
「僕が説明すると信用してもらえるけれど、現場の職人が説明すると納得してもらえない」
屋根工事には、材料の種類やメーカーごとの施工上の違いがあります。元請けの監督が、そのすべてに詳しいとは限りません。施工方法の根拠や残るリスクを説明できなければ、必要以上のやり直しにつながることもあります。
つまり、右腕に求めているのは「工事ができる人」だけではないのです。施工の知識を、相手が判断できる説明に変えられる人が必要になっています。 ここを曖昧にしたまま人を増やしても、最後の説明役は社長に残りやすくなります。
協力会社中心の体制では、経営情報まで任せる相手を選びにくい事情
施工を頼む相手としての信頼と、会社の内側まで共有する相手としての信頼は、分けて考える必要があります。 同社が右腕づくりに踏み出せない背景にも、この違いがありました。
長く付き合う協力会社には、仕事のできる人がいます。右腕候補として声をかけた相手もいます。ただ、相手が自分の会社を持っていたり、取引先の社員だったりすると、すぐに自社へ迎えられるわけではありません。引き抜きと受け取られれば、これまでの関係にも影響します。
また、現場を任せる範囲が広がれば、元請けからの受注条件や会社の収支など、共有が必要になる情報も増えます。協力会社として施工をお願いする段階と、会社運営に関わってもらう段階では、開示する情報の重みが違います。
「会社に所属する人でなければ、中身を全部開くのは難しい」
この言葉には、任せたい気持ちと、経営情報を守る必要の両方が表れています。
一方、社内で育てるにも時間がかかります。同社はこれまで、職人が育った後に独立し、協力会社として施工を担う形をつくってきました。施工力を確保するうえでは意味のある体制です。ただ、独立して施工を担う人を育てることと、社内で会社を任せる人を育てることでは、目指す役割が違います。
相談の中では、元請けからの信用を気にして、候補者の年齢や見た目にも話が及びました。ただ、本当に必要なのは、年齢そのものではなく、技術的な根拠を説明し、会社を代表して調整できる力です。社長自身も、将来性のある若手を育てる可能性は考えていました。
右腕の役割を分け、説明と判断を段階的に引き継ぐ進め方
最初に決めたいのは「誰を右腕にするか」より、「右腕に何を任せれば社長が営業に動けるか」です。 同社の悩みを整理すると、必要な役割は四つに分けられます。
- 施工技術:材料や施工方法の違いを理解し、現場の条件に応じて対応する役割です。
- 現場管理:職人や協力会社と調整し、工事を進める役割です。
- 対外説明:元請けの監督に施工方法やリスクを説明し、合意を得る役割です。
- 会社運営:受注条件や収支を理解し、会社としての判断に関わる役割です。
この四つを一人に最初から求めると、候補者はかなり限られます。まずは、社長がどの役割から離れたいのかを決めることが出発点です。同社なら、施工を担う協力会社はいるため、現場管理と対外説明をどこまで移せるかが、営業に使える時間をつくる鍵になります。
社内育成と外部採用は、任せたい時期と不足する力で比較する
育成か採用かは、年齢や経験年数だけでなく、任せるまでの時間と、足りない役割で判断します。
社内育成は、会社の仕事や取引関係を理解しながら、役割を広げられる点が強みです。ただし、施工を覚えるだけでは、元請けへの説明や会社運営まで自然に身につくとは限りません。右腕候補として育てるなら、どの役割まで期待するのかを本人と共有する必要があります。
外部採用は、現場管理や対外説明の経験を持つ人に出会えれば、任せられるまでの時間を短縮できる可能性があります。一方、経験者だからといって、自社の工事や取引先との関係にすぐ対応できるとは限りません。迎え入れる費用と、実際に任せられる範囲を併せて見る必要があります。
既存の協力会社に候補者がいる場合も、能力だけで決めず、所属や取引関係をどう整理できるかが先です。同社のように明確な期限を設けていないなら、完成された右腕との出会いだけを待つのではなく、社内育成を軸に外部採用も比較する考え方が取れます。
任せる業務、判断権限、共有情報をひと組で整理する
業務だけ渡すのではなく、「どこまで決めてよいか」「何を知る必要があるか」まで揃えると、引き継ぎが進めやすくなります。
整理の順番は、次の三つです。
- 社長が担う仕事を、施工判断、現場管理、元請けへの説明、会社運営に分けます。
- それぞれについて、候補者に任せる範囲と、社長に確認を戻す範囲を決めます。
- 任せる判断に必要な情報を確認し、共有する範囲を決めます。
現場の技術説明を任せる段階で、会社の経営情報をすべて開く必要があるとは限りません。一方で、受注条件や収支に関わる判断まで任せるなら、それに必要な情報なしでは判断できません。情報を全部見せるか、何も見せないかの二択にしないことが大切です。
引き継ぎも、一度に完了させようとせず、社長が担ってきた判断と説明を共有し、候補者が対応できる範囲から広げていく形が考えられます。確認したいのは、話し方の印象だけではありません。施工方法の根拠を説明できるか、リスクを伝えられるか、元請けと必要な調整ができるかです。
「社長が言えば通る」を、候補者も根拠を持って説明できる状態へ変えていくことが、右腕づくりの中心です。
まとめ
社長が営業に専念するための右腕づくりは、人探しと同時に、社長に残っている役割を分けることから始まります。
施工を担う人がいても、現場判断や元請けへの説明が社長に集中していれば、時間は空きません。施工技術、現場管理、対外説明、会社運営を分け、まず何を任せたいのかを決める。そのうえで、育成と採用を比較すると、必要な人材像が具体的になります。
候補者の適性は、年齢や見た目だけでは判断できません。根拠を持って説明し、調整できるかを確かめることが大切です。業務、判断権限、共有情報を揃え、任せられる範囲を少しずつ広げることが、営業に動ける体制につながります。
現場の何を任せれば営業に動けるか、整理するところから
右腕候補を探し始める前でも、社長に集まっている仕事を整理するところから相談できます。 「職人はいるのに手が空かない」「育成と採用のどちらを優先すべきかわからない」という段階でも構いません。
ネクスゲートは、中小建設会社・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。右腕づくりでも、必要な役割や任せる範囲を整理し、自社に合う進め方を一緒に考えます。
相談したからといって、支援の利用を急いで決める必要はありません。無理な営業はいたしませんので、自社の場合はどう考えるべきかを整理する機会としてご相談ください。