住宅施工を担い、社長・会長・相談役が経営に関わる建設会社
社内改革の出発点は、役員を入れ替えることよりも、経営陣が同じ方針で決められる状態をつくることです。
ある住宅施工を担う建設会社では、社長、会長、相談役がそれぞれ経営に関わっていました。長く主要取引先の施工を担い、取引先からも立て直しを期待されていた会社です。
改革に向けて社員への聞き取りが進み、主要取引先の評価も確認されていました。その中で見えてきたのが、社長と会長の意思決定が揃っていないという問題でした。
その後、相談役が退任する意向を示し、ほかの役員の序列を変える案が浮上します。社長は「自力で、いい方向に着地できそうだ」と捉えていました。一方、会長の受け止めは「それだけで変わるわけではない」というものでした。
同じ人事案を見ても、一方は改革の区切りと考え、もう一方は改革の入口にも届いていないと考えている。この認識の差が、次の方針を決めるうえで残っていました。
相談役の退任案が出ても揃わない改革の到達点
人事上の着地と、意思決定の立て直しは、分けて確認する必要があります。
相談役が退くことや、役員の上下関係が変わることには意味があります。ただし、それによって誰が改革を決められるようになるのかは別の話です。
この会社では、会長が改革を進めたいと考えていても、最終的には「社長の判断なので」という話に戻る状況がありました。主要取引先には、会長を改革の中心に据えて進めてほしいという意向がありましたが、社内の方針はそこまで揃っていませんでした。
社員への聞き取りからも、社長と会長の方針の不一致が課題として受け止められていました。つまり、経営陣の間だけで完結する問題ではなかったのです。
確認したいのは、退任する人がいるかどうかだけではありません。人事が変わったあと、誰が最終決定し、ほかの経営陣がその決定にどう協力するのか。ここまで決まって初めて、現場が動くための土台になります。
役職・実際の影響力・取引先への危機認識のずれ
肩書だけでは見えない影響力と、改革の必要性に対する認識の違いが、意思決定を複雑にしていました。
まず、役職上の立場と、実際に経営へ及ぼす影響力が一致するとは限りません。相談役に退任の意向があっても、それだけで経営への関与の範囲まで変わったとは判断できません。この会社でも、退任案とともに役員の配置を変える話が出ており、改革の権限が誰に集まるのかは明確になっていませんでした。
また、株式保有のあり方が、会長の動ける範囲を制約しているのではないかという見方もありました。ただし、持株関係による具体的な制約は確認が必要です。「会長なのだから決められるはず」と役職だけで考えず、実際にどこまで決定できる立場なのかを整理する必要があります。
もう一つは、主要取引先の評価をどう受け止めるかという違いです。取引先側からは評価の低下と、発注物件数を絞らざるを得ない状況が伝えられていました。社内改革は、社内の関係を整えるだけでなく、取引先からの信頼を立て直すための課題でもあったのです。
それでも、社長は人事案によって自力で進められると考え、会長は引き続き外部の支援も必要だと考えていました。
同じ情報を知っていることと、何を変える必要があるかについて合意していることは別です。 人物の好き嫌いや未確認の評判ではなく、社員の声と取引先の評価をもとに、この認識の差を埋めることが先になります。
社員の声と取引先の評価を共有し、改革を決める権限の明確化
進める順番は、課題の共有、最終決定者と権限範囲の合意、社員への説明と支援です。 人事案への賛否だけで話を終えず、その体制で実際に改革を進められるかを確かめます。
社員の聞き取りと主要取引先の評価を突き合わせる
最初に揃えたいのは、「誰に問題があるか」ではなく、「会社として何を変える必要があるか」です。
社員への聞き取りから見えた方針の不一致と、主要取引先から伝えられた評価や発注への影響を、経営陣で一緒に確認します。その際、確認できている事実と、人物への評価や推測は分けて扱います。
この会社であれば、社長と会長の方針が揃っていないこと、取引先の評価が下がっていること、人事案に対する経営陣の受け止めが異なることが、共有すべき論点です。相談役の退任で、このうち何が解消され、何が残るのかを確認すると、話を具体化できます。
最終決定者と、ほかの経営陣が協力する範囲を決める
次に、改革の中心を誰が担うかを明確にします。主要取引先が会長を支持していても、それだけで社内の権限が移るわけではありません。社長を含めた経営陣の合意が必要です。
整理する項目は、次の四つです。
- 改革方針について、誰が最終決定するのか
- その人が決められる範囲と、ほかの経営陣との協議が必要な範囲はどこか
- 社長・会長・相談役が、決定後にそれぞれどのような立場で関わるのか
- 株式保有などの事情により、その権限を実際に持てない制約がないか
最終決定者の名前だけでなく、その決定を経営陣が一緒に実行する方針まで揃えることが重要です。 「会長に任せる」と言いながら最後は社長判断に戻るのであれば、権限の整理はまだ途中です。
社員への説明と、変化に伴う負担への支援をセットにする
経営陣の方針が揃ったら、社員に何を変えるのかを説明します。役員の肩書が変わったという報告だけでは、現場がどう動けばよいかは伝わりません。
改革の目的、誰が決めるのか、社員にはどのような協力を求めるのかを、経営陣が同じ内容で伝えることが必要です。そのうえで、変革に伴う負担を聞き取り、支えるところまでを改革の範囲に含めます。
この会社でも、改革の権限をまとめる過程では、社員に負担が生じる可能性が想定されていました。外部支援を活用するなら、経営陣の合意を代わりにつくってもらうのではなく、合意した方針の説明や、社員が変化に対応するための支援に役割を置くと整理しやすくなります。
人事変更後の判断軸も、役職表が変わったかどうかではありません。決めた方針が経営陣の間で揺り戻されず、社員が同じ方針に沿って動けるようになったかを確かめます。 そこまで変わっていなければ、権限や協力関係を再確認する余地があります。
まとめ
社長と会長の方針が揃わないときは、人事上の決着を改革の完了とせず、意思決定の仕組みが変わったかで判断します。
相談役の退任や役員の序列変更は、一つの契機になります。ただ、それによって最終決定者と権限範囲が明確になり、経営陣が協力できるかどうかは、別に確認する必要があります。
まずは社員の聞き取りと主要取引先の評価を突き合わせ、何を変える必要があるのかを共有すること。そのうえで、誰が決め、誰が支え、社員にどう伝えるかを揃えることです。
肩書を整えるだけでなく、決定と現場の行動が変わるところまで見届ける。その視点が、次の人事や支援の選び方も明確にしてくれます。
社長・会長の役割と、改革の進め方を整理したいときに
「うちの場合、誰がどこまで決める体制にすればよいのか」という段階から、整理を始められます。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。経営陣の役割整理や方針の共有、社員への説明といった、社内改革を動かすための進め方も一緒に考えます。
人事案はあるものの、それで改革が進むのか判断しきれない。何から整理すればよいかわからない。そうした段階でもご相談いただけます。無理に支援の導入をお勧めすることはありませんので、自社の状況を整理する機会としてお声がけください。