職人が安心して工事を進めるための新規元請け開拓
新しい元請けを増やすときは、工事の条件だけでなく、代金を回収できる条件も一緒に整える必要があります。 兵庫県のある小規模な建設会社では、住宅の新築や改修を担うなかで、新規の元請け開拓を進めていました。
同社は、大工をはじめとする各職種の協力業者とともに、建築一式の工事を進める会社です。仕事の受け皿を広げるためにも、発注元となる企業との接点を増やしたいと考えていました。ただし、一社から大量の仕事を受けるより、複数社と少しずつ取引を始め、依存を分散する方針です。
その前提にあったのが、取引保証を使った確認でした。新たに取引する企業について審査を受け、保証される金額を確認する社内ルールを設けていたのです。
「安心して、うちの仕事であれば工事を進めていけるところも示していきたい」
保証の利用は、単に会社の損失を抑えるためだけではありません。ともに工事を担う職人に、安心して仕事を任せられる状態をつくるためでもありました。
工事条件がまとまった後に判明する取引保証の不足
受注判断を難しくしていたのは、話が進んだ後で、必要な金額と実際に認められる保証額の差が見えてくることでした。 問い合わせを受けた企業と工事内容や金額を詰めていても、保証の審査結果が想定を下回り、そのままでは取引を始めにくいケースが複数あったといいます。
「金額的な部分で合意できても、信用取引の部分で厳しい、という状況は避けたい」
工事内容が合い、金額も折り合う。それでも、代金回収の備えが足りなければ、受注してよいかは別の判断になります。営業上は前進していても、受注に必要な条件がそろっていない状態です。
一方で、決済条件の詳細は、相手と話を進めなければわからない部分もあります。最初からすべてを審査して取引可否を確定することも、現実的ではありません。
ここで必要なのは、営業を止めて審査だけを先行させることではなく、早い段階で確認できる信用面の情報と、工事内容が固まってから照合する回収条件を分けることです。最後になって初めて保証額を見る進め方から、段階ごとに確認する進め方へ整える余地があります。
未回収対応で失った時間と保証枠への想定のずれ
慎重な受注姿勢の背景には、未回収によって経営の時間や労力を奪われた経験がありました。 相談者自身が過去に対応の大変さを経験しており、協力業者からも同じような苦労を聞いていました。
「以前にも、未収のところで奪われるリソースが大変だった経験をしています」
取引先を増やしても、入金が遅れ、その対応に時間を取られるのであれば、次の仕事をつくる活動に集中しにくくなります。同社では対外的な調整を主に一人で担っていたため、取引件数だけを増やせばよいわけではありませんでした。
もう一つの背景は、保証サービスに加入することと、予定する取引を十分に保証してもらえることの違いです。サービス全体の上限があっても、取引先ごとの審査で認められる額が、その上限まで出るとは限りません。
対話では、保証会社側の枠の事情が影響しているのではないか、という話も出ていました。ただし、その理由は確認できていません。
保証枠が小さいという結果だけで、相手企業の経営状態が悪いと断定することはできません。 相手企業の信用評価によるものなのか、保証会社側の引受上限やサービスの適用条件によるものなのか、説明を受けられる範囲で切り分ける必要があります。理由を確認しないままでは、取引を見送るべきなのか、条件を調整すれば進められるのかも判断しづらいままです。
営業候補の選定と並行する信用確認と受注条件の調整
保証サービスを増やす前に、確認する時点、未回収になり得る金額、条件を変えて受けられる範囲をそろえることが先です。 同社が考えていた決済方法の調整、材料支給、分離発注、小さく始める取引方針は、その整理に使える具体策です。
候補先の段階と受注前の段階で確認を分ける
営業候補を選ぶ段階では、施工領域や対応エリアに加え、利用中の保証サービスで審査できる相手か、どの程度の保証が見込めるかを、確認可能な範囲で並行して見ていきます。
そのうえで、工事内容や決済条件が具体化した段階で、実際の受注判断に必要な照合を行います。候補先の時点で保証額がわかっていても、受ける仕事の範囲が変われば、十分かどうかは変わるためです。
同社では、相手に対して取引保証を利用していることや、決済条件によっては受注が難しいことを、事前に丁寧に伝えていました。この姿勢を社内ルールとしてそろえておけば、条件がまとまった後の説明だけに頼らずに済みます。
紹介された会社や、先方から問い合わせが来た会社も、同じ確認ルールで扱うことが大切です。 接点ができた経緯と、代金を回収できる条件は分けて考えます。
工事総額ではなく、入金前に残る金額と保証範囲を照合する
保証額と照合したいのは、契約上の工事総額だけではありません。工程ごとの決済があるなら、その入金を受けるまでに、どれだけの工事代金が未回収の状態で残るのかを見る必要があります。
受注前には、少なくとも次の項目を並べると判断しやすくなります。
- 自社が請け負う工事の範囲と金額
- 工程ごとの請求・入金時点と、その間に残る未回収想定額
- その取引先に認められた保証額と、保証対象となる取引の範囲
- 保証の対象となる事由や手続きなどの適用条件
- 保証で補えない金額と、その部分を減らすために必要な条件変更
同社では、工程ごとに決済してもらえば、保証の範囲に収めやすくなるのではないかと考えていました。ただし、保証額を工期の月数分だけ使えると考えたり、入金のたびに枠が自動で戻ると見込んだりせず、利用条件を確認する必要があります。 分割して決済するという約束だけではなく、その条件で実際に保証がどう適用されるかまで照合します。
また、支払いの遅れを懸念しているなら、その遅れが保証の対象になるかも確認が必要です。「保証に入っているから、遅れへの対応も不要」とは考えず、何を補い、何が残るのかを明確にします。
保証が足りない場合は、受ける範囲と決済条件を組み直す
保証額が不足したときの選択肢は、そのまま受けるか、すべて断るかの二つではありません。同社からは、材料を取引先に支給してもらうこと、工種ごとに分離発注してもらうこと、工程ごとに決済してもらうことが挙がっていました。
材料支給は、自社で材料を調達する範囲を小さくするための方法です。分離発注は、工事一式を抱えるのではなく、自社が担う部分を絞る方法です。工程ごとの決済は、工事が進む間に未回収額が積み上がる状態を抑えるための調整になります。
ただし、どの方法も、採用するだけでリスクがなくなるわけではありません。条件を変えた後の未回収想定額をもう一度計算し、保証で補えない部分がどれだけ残るかを確認することが、受注判断の軸です。 条件の調整ができず、自社で引き受けられない未回収リスクが残るなら、受注範囲を縮めるか、見送る判断につなげます。
保証の追加は、既存の保証で補えない部分を確認してから検討する
別の保証サービスの利用も選択肢ですが、加入を増やせば必要な額を確保できるとは限りません。まず、既存サービスで不足するのが金額なのか、対象となる取引の範囲なのかを整理します。
追加を検討する場合も、同じ取引に対して併用できるか、それぞれがどの範囲を保証するかを確認し、単純に保証額を足し合わせないことが必要です。そのうえで、費用と、条件調整によって減らせるリスクを比べます。
同社が考えていた「一社に集中せず、複数社と小さく始める」という方針も、この判断とつながります。最初から受注量を大きくせず、実際の支払い状況を確かめながら、取引を広げられる条件が整っているかを見ていく進め方です。
まとめ
新規の元請け開拓では、仕事があるかと同時に、どの条件なら安心して受けられるかを整理することが重要です。 工事の金額がまとまってから保証不足に気づく状態は、信用面の確認を営業と並行して進めることで減らせます。
まずは候補先の段階で確認できる情報を押さえ、具体的な工事が見えてきたら、未回収想定額と実際の保証範囲を照合します。不足があれば、決済方法、材料支給、分離発注などで受注条件を組み直し、それでも残るリスクを引き受けられるか判断します。
保証額の大小だけで相手企業を決めつけず、保証に加入しているだけで安心とも考えない。その間を埋める社内ルールが、職人に安心して仕事を任せながら、取引先を増やす土台になります。
元請け開拓と回収条件を一緒に整理するために
「どこに営業するか」と「どの条件なら受けるか」は、一緒に整理できます。 候補先はあるものの保証額との兼ね合いで判断が止まっている場合は、営業先をさらに増やす前に、受注範囲や決済条件を並べ直すことが次の一歩になります。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。元請け開拓についても、候補先の選定だけでなく、自社の施工体制や回収条件を踏まえた進め方からご相談いただけます。
「うちの場合は何から確認すればよいか」という段階でも構いません。無理にサービスの利用をおすすめすることはありませんので、次の整理先としてご相談ください。