戸建て中心の5名規模の会社が、集合住宅への展開に向けて増員を考えた段階
既存の戸建ての仕事を続けながら集合住宅にも進むには、人を増やす必要があるのではないか。そんな考えから、採用を検討し始めた専門工事会社の相談です。
埼玉県にある5名規模のこの会社は、特定の取引先から請ける戸建ての工事を主力にしていました。今後はアパートなどの集合住宅へ仕事を広げたい一方、長く付き合ってきた取引先の仕事から、すぐに人を引き上げるわけにもいきません。
当初の増員の狙いは、既存の仕事に充てる人数を維持し、新しい分野にも対応できる体制をつくることでした。単に忙しいから人が欲しいというより、仕事の幅を広げるための採用です。
ただ、検討を進めると、採用より先に確認したいことが見えてきました。現在どれだけ利益が残っているのか、集合住宅の現場を確保できるのか、今いる社員が異なる現場に対応できるのか。その整理が十分ではなかったため、費用をかけた採用はいったん見送る判断になりました。
増員後の仕事と利益が見えず、採用の必要性を判断しきれない状態
採用に踏み切れない理由は、費用へのためらいだけではなく、増員後にどの仕事を誰が担い、利益を残せるのかがまだ見えていないことでした。
現在の利益については、年間で数百万円ほどという感覚的な見立てはありました。ただし、粗利の整理はできておらず、その金額がどの費用まで差し引いた利益なのかも、十分に確認できていませんでした。採用にお金を使えるか、その後に利益を出せるかという判断の土台が、まだ曖昧だったのです。
集合住宅についても、営業先に連絡を取り、やり取りを始めている段階でした。新しい取引につながる可能性はあっても、実際の現場や継続的な仕事量を見通せる状態とは分けて考える必要があります。
さらに、既存社員の育成も残っていました。相談者が重視していたのは、現場が変わっても今いる社員が対応できる状態にすることです。新しい人が入っても、既存社員を含めた体制が整っていなければ、狙っていたように仕事を広げられるとは限りません。
つまり、確認すべきなのは採用費用の大小だけではありません。現在の人数で対応できる仕事量と、新分野に進むうえで不足する能力を分けて確認し、その不足を増員で埋めるべきかを考えることが先になります。
既存の戸建てを維持する方針から、受注の比重を見直す考えへの変化
採用の前提が揺らいだ背景には、戸建てをそのまま維持して仕事を上乗せするのか、集合住宅へ徐々に比重を移すのかという方針の変化がありました。
既存の戸建てでは、追加工事の単価が上がらないことに加え、そもそも追加工事として扱うかどうかの回答が出ない状況もありました。こうした取引上の事情から、相談者は新しい取引先との仕事を始め、既存の戸建ての比率を下げることも考えるようになっていました。
ここが変わると、必要な人数の考え方も変わります。戸建ての仕事量を維持したまま集合住宅を増やすなら、両方を担える人数が必要になります。一方、戸建ての比率を下げながら移行するなら、今いる社員の配置や育成で対応できる範囲を先に確かめる余地があります。
相談者の「まずは人というより、現場なのかな」という言葉は、採用への意欲がなくなったという意味ではありません。増員の前提となる仕事を固め、既存社員が対応できる状態をつくりたいという、順番の見直しと捉えられます。
ただし、新分野の仕事が確保できる前に、既存の仕事を大きく減らせるわけでもありません。現在の収入を支える仕事と、これから育てたい仕事を並べながら、どこまで移せるかを考える必要があります。
「既存の仕事に新しい仕事を足す」のか、「既存の仕事の一部を新しい仕事へ置き換える」のか。この違いを揃えないと、増員の必要性も採用の時期も決まりにくくなります。
利益・受注見込み・既存社員の対応力を揃えてから決める採用の順番
採用を進めるかどうかは、現在の利益、新分野の受注見込み、今いる社員の対応力を同じ前提で確認して判断します。 すべてが整うまで動かないのではなく、受注開拓と育成を進めながら、増員が必要になる条件を明らかにしていく考え方です。
まず、現在の利益と増員後の負担を同じ基準で確認する
最初に整理したいのは、現在の仕事からどれだけ利益が残っているかです。今回のように、利益の金額が感覚的な段階では、その数字だけで採用への支出を決めるのは難しくなります。
粗利と最終的に残る利益を混同せず、どの費用まで含めた数字なのかを確認します。そのうえで、採用にかかる費用だけでなく、入社後に継続して増える負担も並べ、新しい現場から利益が出るまで支えられるかを見ます。
ここでの判断軸は、採用時の支出を払えるかだけではありません。新分野の仕事がまだ十分に入らない場合でも、増員後の体制を維持できるかまで確かめることが大切です。
次に、集合住宅の受注見込みと動かせる人数を照らし合わせる
新しい取引先と連絡が取れていることと、社員を配置できる現場が決まっていることは、分けて整理します。営業を始めている段階なら、まずは実際に依頼されそうな仕事の内容や時期、必要な人数を確認することが次の一手になります。
同時に、既存の戸建てに何人を充てる必要があるのか、そこから集合住宅へ動かせる人数がいるのかを確認します。新分野だけの必要人数ではなく、既存の仕事と重なる時期に対応できるかを見るためです。
現場の見込みがまだ薄いなら、優先するのは受注開拓です。現場の見込みが具体化し、現在の体制では両方を担えないと分かってきた段階で、増員の必要性を改めて判断できます。
既存社員の育成と、人数の不足を切り分ける
集合住宅に進むうえでは、誰が異なる現場に対応できるのか、誰には育成が必要なのかを確認します。相談者が考えていた「今いる社員を育ててから」という方針は、この確認につながります。
大切なのは、対応できない理由を一括りにしないことです。人数が足りないのか、今いる社員が新しい現場に対応できる状態になっていないのかによって、先に進めることが変わります。
- 新しい現場の見込みが不足しているなら、受注開拓を優先します。
- 現場の見込みはあるものの、既存社員の対応に課題があるなら、育成を優先します。
- 対応できる社員がいても、既存の仕事との両立に人数が足りないなら、増員を検討します。
採用は、仕事と体制を確認した結果として残る不足を埋める手段です。人数を増やすこと自体を、集合住宅へ進むための答えにしないことが判断の軸になります。
自社で進める期間にも、見直す時期を置く
この会社では、まずは自社で受注開拓などを進め、半年ほどを区切りに状況を振り返る方向になりました。
自社で取り組む場合も、期限だけでなく、何を確認して判断し直すかを決めておくと進めやすくなります。現在の利益を把握できたか、集合住宅の現場が具体化したか、既存社員の対応力を確認できたか。この三つを見直せば、次に必要なのが採用なのか、開拓や育成の継続なのかを考えられます。
半年たったら必ず採用するという意味ではありません。自社で進められる部分と、外部の力を借りたい部分を、その時点の状況で判断するための区切りです。
まとめ
戸建てから集合住宅へ仕事を広げる際は、採用を先に決めるより、どの仕事を維持し、どの仕事へ人を移すのかを明らかにすることが出発点です。
今回の会社では、利益の把握、新しい現場の確保、既存社員の育成が、いずれも採用判断の前提になっていました。増員をいったん見送ることは、新分野への展開を止めることとは違います。
現在の利益と増員後の負担を確認し、受注見込みと社員の対応力を照らし合わせる。そのうえで残る不足が人数であれば、採用の目的も必要な時期も明確になります。受注開拓と育成を進めながら、一定の時期に判断し直せる状態をつくることが、無理のない次の一手につながります。
集合住宅への展開と採用の順番を整理したい方へ
「人を増やすべきか」だけでなく、「今の体制でどこまで進められるか」から整理することもできます。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。集合住宅への販路開拓と既存社員の育成、採用の時期を別々に考えるのではなく、現在の仕事と利益を踏まえて優先順位を整理するお手伝いができます。
「うちの場合は何から確認すればよいか」という段階でもご相談いただけます。無理にサービスの利用をお勧めすることはありませんので、自社で進める範囲と支援が必要な範囲を考える整理先としてご活用ください。