近畿一円で通信インフラ工事を手がけ、売上1億円の安定と一人当たり労務単価の向上を目指す専門工事会社
兵庫県を拠点に、近畿一円で通信インフラ工事を手がける専門工事会社があります。既存取引先から継続的に仕事を受けながら、新たなデータセンター関連工事にも携わり始めていました。
経営上の目標は、売上1億円を安定して確保することです。ただし、案件数を増やすだけではなく、社員一人当たりの労務単価も引き上げたいという意向がありました。
新規営業先の候補として挙がったのは、通信インフラ工事を行い、大手通信工事会社などを主要販売先に持つ企業です。工事内容は自社と近く、業績も伸びているため、一定の案件量を期待できそうでした。
ところが、候補企業を見た代表から出たのは、次の言葉でした。
「事業内容は合っています。難しいのは、元請さんから見て何次の会社なのかです。そこが同じなら、取引先が増えても一人当たりの金額帯は変わらないと思います」
新規取引先の評価では、工事内容が合うかだけでなく、その会社が商流のどこにいるかを確認する必要があります。
同じ工種の会社と取引できても、元請からの階層が深ければ労務単価は上がらない
営業先を「電気通信工事を扱っている会社」「大手との取引実績がある会社」という条件だけで選ぶと、案件数は増えても単価が変わらないことがあります。
たとえば、大手通信工事会社の名前が販売先として掲載されていても、その企業が一次請けに近いのか、間に別の工事会社やゼネコンが入り二次・三次の立場なのかは、公開情報だけでは判断できません。
自社の現在地と同じ階層にいる会社から受注すれば、取引先の分散や稼働の安定にはつながります。一方、間に入る会社の数や発注構造が変わらなければ、労務単価の大幅な改善は期待しにくくなります。
ここで分けて考えたいのは、次の二つです。
- 案件数を増やし、仕事量を安定させるための取引先
- 元請に近い商流へ入り、労務単価を高めるための取引先
前者と後者は、どちらも大切です。ただし、営業先に求める役割が違います。
「仕事を持っていそうな会社」と「高い単価で発注できる会社」は、同じとは限りません。
この区別が曖昧なままリストを増やすと、アポイントや面談の件数は増えても、経営目標である労務単価の向上につながらない可能性があります。
主要販売先や売上の伸びは分かっても、実際の発注経路までは公開情報に表れにくい
当初の営業先候補は、近畿圏の電気通信工事会社を母集団とし、対応工種、所在地、主要販売先、売上や利益の伸びなどから絞り込まれていました。候補企業はいずれも、自社と近い通信インフラ工事を扱い、複数の大手企業との取引が確認できる会社でした。
この絞り込みは、仕事量を持つ会社を探すうえでは有効です。売上や利益が伸びていれば、受注量が増え、協力会社を必要としている可能性も考えられます。大阪や兵庫に案件が集中しているなら、移動や施工体制の面でも営業対象にしやすくなります。
一方で、代表が重視していたのは企業規模よりも「立ち位置」でした。
「会社の規模より、元請からの立ち位置のほうが大事です」
「同業で工事内容が近くても、二次なのか三次なのかで金額帯は変わります」
ここに、建設業の新規開拓が企業データだけでは完結しない理由があります。ホームページなどから確認できるのは、主に次の情報です。
- 対応工種と施工領域
- 主要販売先や取引実績
- 本社・営業所の所在地
- 会社規模
- 売上や利益の推移
- 今後伸びそうな案件領域への関与
しかし、実際に知りたい次の情報は、表に出ていないことが少なくありません。
- 誰から直接発注を受けているのか
- 発注者や元請から数えて何次の立場なのか
- 自社へ発注する場合、さらに何層下になるのか
- 常用、人工、請負のどの形が中心なのか
- 想定される労務単価や見積条件はどうか
- 一時的な応援要請か、継続的な発注を見込めるのか
公開情報は営業先を絞る材料であり、商流上の立ち位置を確定する情報ではありません。
そのため、新規開拓では最初から完璧なリストを作ろうとするより、公開情報で仮説を立て、初回接触や面談で立ち位置を確かめる設計が必要になります。
案件量を増やす先と単価を上げる先を分け、初回接触で商流を確認する営業設計
営業先は、対応工種だけで選ばず、「施工できるか」「仕事量があるか」「商流を上がれるか」の順に評価すると整理しやすくなります。
1.公開情報では六つの項目を確認する
営業リストを作る段階では、少なくとも次の項目をそろえます。
- 対応工種:自社の人員、資格、施工実績で対応できるか
- 主要販売先:どの発注者、元請、通信工事会社と接点があるか
- 元請からの想定階層:一次に近い会社か、二次・三次の可能性が高いか
- 案件量:継続案件や複数現場を抱えていそうか
- 業績の伸び:売上や利益が伸び、外注需要が生まれていそうか
- 営業エリア:自社の施工可能地域に本社や事業所、現場があるか
主要販売先の社名だけで判断せず、その販売先が発注者なのか元請なのか、さらに別の会社を介しているのかまで仮説を置くことがポイントです。
東京に本社がある企業でも、関西に事業所を持ち、近畿の施工業者を探している場合があります。したがって、所在地は本社だけで区切らず、支店や事業所、実際の施工エリアまで確認します。
営業リストは「同業者一覧」ではなく、自社がどの商流へ入れる可能性があるかを比べる表として作ります。
2.営業先を「案件量」と「単価改善」の二軸で分類する
候補企業は、一つの順位にまとめず、目的別に分類します。
分類 | 想定される役割 | 優先して確認すること |
|---|---|---|
案件量を増やす先 | 稼働の平準化、取引先の分散 | 現場数、発注頻度、継続性、施工エリア |
単価改善を狙う先 | 元請に近い案件、高単価案件への足掛かり | 元請からの階層、直接発注の有無、見積条件 |
両方を狙える先 | 売上と労務単価の同時改善 | 商流、案件量、今後の発注計画 |
情報収集を優先する先 | 将来案件や新領域の把握 | 市場の動き、協力会社の選定状況 |
既存取引先と同列の会社は、案件量を増やす営業先としては十分に価値があります。ただし、単価改善を目的とするリストでは優先順位を下げ、一次請けに近い会社や発注者側と接点を持つ会社を上位に置きます。
同じ企業でも、「案件数を増やす相手」としての評価と、「単価を上げる相手」としての評価は分けて持つべきです。
3.初回接触では商流を直接確認する
公開情報で分からない部分は、初回の電話や面談で確認します。ただし、「御社は何次請けですか」と唐突に聞くより、案件の流れに沿って尋ねたほうが自然です。
たとえば、次のような質問が考えられます。
- 「今回募集されている工事は、どちらから発注を受けている案件でしょうか」
- 「御社から当社へ発注いただく場合、商流上はどのような位置づけになりますか」
- 「ゼネコンや設備会社を介する案件と、直接受注の案件では、どちらが多いでしょうか」
- 「協力会社には、常用と請負のどちらでお願いすることが多いですか」
- 「人工単価や見積条件は、工事ごとに決まる形でしょうか」
- 「近畿圏では、今後どの程度の案件量を予定されていますか」
- 「単発の応援だけでなく、継続して入れる現場はありますか」
ここでは単価だけを先に聞くのではなく、発注経路、契約形態、案件量を一緒に確認します。同じ人工単価でも、移動距離、稼働日数、継続性、現場管理の負担によって採算は変わるからです。
確認すべきなのは提示単価だけではなく、その単価がどの商流、契約形態、案件量で成り立っているかです。
4.接触後の情報で優先順位を更新する
営業先の評価は、リスト作成時点で確定させません。電話、面談、見積提出を通じて分かった内容を記録し、優先順位を更新します。
記録する項目は、次の程度でも十分です。
- 直接の発注元
- 元請からの階層
- 対象工事と施工エリア
- 想定案件量と開始時期
- 契約形態と単価感
- 自社の施工実績との適合度
- 次回確認事項と連絡時期
「工事内容は合うが、既存取引先と同じ階層だった」という情報も無駄ではありません。その会社は単価改善先ではなく、案件量を補う先として再分類できます。
反対に、公開情報では優先度が低く見えた企業でも、関西事業所で協力会社を探している、元請に近い立場で新しい案件を抱えていると分かれば、優先順位を上げられます。
営業活動は、リストどおりに連絡する作業ではなく、接触によって商流の地図を更新する活動です。
まとめ
建設会社の新規取引先は、工事内容や主要販売先が合うだけでは十分に見極められません。元請から何層目にいる会社なのか、自社へ発注されたときにさらに階層が深くならないかを確認する必要があります。
案件量を増やす営業と、労務単価を高める営業は、分けて設計することが大切です。前者では発注量や継続性、施工エリアを重視し、後者では元請からの階層や直接発注の有無、見積条件を重視します。
公開情報で候補を絞り、初回接触で商流を確認し、得られた情報で優先順位を更新する。この流れが、単なる取引先数の増加を利益につながる新規開拓へ変えていきます。
自社に合う営業先と商流の整理から始めたい方へ
「候補企業は見つかるものの、どこへ営業すれば単価改善につながるのか分からない」「主要販売先は確認できても、商流上の立ち位置までは判断できない」という段階では、営業リストを増やす前に評価軸をそろえると動きやすくなります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の販路拡大を、対応工種、商流、営業エリア、案件量などの整理から実行まで支援しています。「うちの場合は何から確認すべきか」という段階でも問題ありません。無理に営業を進めることはありませんので、今後の案件獲得や元請け開拓を考えるための整理先としてご活用ください。