文化施設の保管設備や展示に携わる専門工事会社の販路開拓
専門性の高い工事の販路開拓では、「大手に会えること」と「自社が受けたい仕事が増えること」を分けて考える必要があります。
ある専門工事会社では、文化施設の保管設備や展示に関わる施工経験を重ね、主な取引先から仕事を受けていました。新たな営業先として候補に挙がったのは、展示や空間づくりを幅広く手がける大手企業です。その企業の幹部経験者を通じて、仕事の判断に関わる担当者と接点を持てる可能性がありました。
通常の窓口から営業するよりも、実績や得意分野を伝えやすい。そうした接点には、確かに意味があります。ただ、社長が確かめたかったのは、会える相手の役職や人数だけではありませんでした。
「そういう案件も、あるとは思う。ただ、相手が受注できなければ、こちらも仕事はできないでしょう」
この会社が施工で受けたいのは、店舗内装全般ではなく、経験を生かせる専門領域の工事でした。さらに将来は、施工だけでなく、施設の計画段階から経験を生かす仕事の割合を増やしたいという意向もありました。営業先を選ぶ前提は、単に取引先を増やすことではなく、「どの仕事を、どの立場で増やしたいか」が揃っていることです。
大手への接点だけでは見通せない専門工事の受注機会
営業先の知名度や担当者との関係だけでは、自社に回ってくる専門工事の件数も、得られる粗利も判断できません。
対象となる工事について、一般的な店舗内装などと比べて頻繁に発生するものではないと確認すると、社長からは「全然少ないね」という言葉が返ってきました。大手企業が多くの案件を扱っていても、そのうち自社の得意分野に該当する工事がどれだけあるかは、別に確かめる必要があります。
加えて、その企業が対象案件を受注するかどうか、受注した場合に既存の施工業者が決まっているかどうかによって、自社の機会は変わります。担当者が関心を持ってくれても、発注できる案件や新たに業者を迎える余地がなければ、すぐに仕事が増えるとは限りません。
「もしかしたら、一年間、一つもないかもしれないわけでしょう」
これは接点づくりを否定する言葉ではなく、営業に時間や費用をかけるうえでの確認でした。案件数が限られる領域では、面談ができたという成果と、受注の見通しが立ったという成果の間に、いくつもの確認事項が残ります。
そのため、営業活動を続けるかどうかは、「有力な人につながれたか」だけでなく、対象工事があり、相手が受注し、新規業者に発注する余地があり、自社に粗利が残るかというつながりで見ていくことが大切です。
案件の少なさと長い施工時期が見えにくくする費用対効果
専門工事の営業は、対象案件の少なさに加え、施工までの期間が長いほど、活動費用を回収できるか判断しにくくなります。
社長が気にしていたのは、紹介された案件の施工が数年先だった場合です。
「案件はあるけれど、三年後、五年後という話ばかり持ってこられても」
将来の工事情報を得られること自体には価値があります。ただし、近い時期の受注を増やす目的で営業を始めたのであれば、施工が数年先の情報だけでは、その目的に十分応えられません。活動を継続する間にも時間や費用がかかるためです。
一方で、社長は、計画段階から関係者と一緒に動き、その取り組みを数年後の仕事につなげることには前向きでした。同じ「数年先」でも、施工の発注を待つことと、専門知識を生かして計画づくりに関わることでは、活動の意味が違います。
また、営業先の受注状況については、社長自身の経験から懸念が示されていました。ただし、相手の見積書や経費の内訳を確認しているわけではなく、受注できない理由まで確かめられていたわけではありません。
ここは切り分けたいところです。相手企業の受注力や経費を推測で評価するのではなく、自社が狙う領域の案件数と実際の受注状況を確認事項に置き換えることが、営業先の見極めにつながります。
年間案件数から粗利までを確かめて分ける短期と長期の営業判断
営業に本格的な時間や費用をかける前に、対象工事の実態を確認し、近い受注を狙う活動と将来の関係をつくる活動を分けて判断します。
この会社に対しても、まず関係者を通じて年間の工事件数や、新規業者が入れる可能性を確かめるという方向が示されました。接点をつくった後に受注可能性を考えるのではなく、接点を生かして判断材料を集める進め方です。
最初に確認するのは、自社が狙う工事の年間案件数
相手企業全体の案件数ではなく、自社が受けたい施工領域に絞って確認します。展示の仕事を幅広く扱う企業でも、保管設備の新設や大規模改修となれば、対象件数は異なる可能性があります。
ここでは、次の五つを一続きで整理すると、接点の価値を判断しやすくなります。
- 年間案件数: 自社が狙う工事は、年間にどの程度あるのか。
- 相手企業の受注状況: その工事に関する引き合いだけでなく、実際にどの程度受注しているのか。
- 新規参入の余地: 施工業者がすでに決まっているのか、自社の実績を踏まえて検討してもらえる余地があるのか。
- 案件化までの期間: 見積もりや施工の依頼はいつ頃になり、現時点ではどの段階なのか。
- 自社に残る粗利: 受注できた場合、営業にかける時間や費用に見合う粗利を見込めるのか。
すべてが最初から明確になるとは限りません。それでも、「案件があるらしい」と「自社への発注を検討できる案件がある」は分けておきたいところです。確認できていない項目を残したまま、受注見込みとして扱わないことが判断の土台になります。
粗利の見通しは、件数と時期を合わせて考える
営業の費用対効果は、受注額の大きさだけでなく、得られる粗利と、それが得られるまでの期間で考えます。
社長が重視していたのも、営業費用に見合う売上が立つかではなく、その費用を賄える粗利が残るかでした。工事件数が限られる場合、一件の受注が持つ意味は大きくなりますが、その一件がなければ回収の見通しも変わります。
まずは、確認できた案件数、参入できる可能性、施工時期を踏まえ、自社がどの程度の粗利を見込めるかを整理します。そのうえで、そこに至るまでの営業活動に、どこまで時間や費用をかけられるかを考えます。
件数が少ないことだけを理由に営業先から外す必要はありません。一方で、「大手だからいずれ仕事になる」という期待だけで継続を決めず、粗利の見通しを置ける材料があるかを確かめることが大切です。
数年先の施工紹介と、計画段階からの参画を分ける
短期の営業は発注の具体性で、長期の営業は希望する立場で関われる道筋で評価します。
近い時期の施工受注が目的なら、対象工事の有無、新規業者への発注余地、依頼の時期が重要です。数年先の施工情報が得られた場合は、将来の候補として扱い、近い受注の見通しとは分けます。
一方、この会社が目指していたように、将来は施設の計画段階から経験を生かしたいのであれば、確認すべきことも変わります。単に先々の施工案件を紹介してもらうのではなく、施設側や計画に関わる相手と、必要な設備や使い方を考える段階から話せるのかが判断軸になります。
社長は、その違いを「二次的、三次的な見積もりの提出ではなく、計画の段階から入りたい」と表現していました。ここでの長期の関係構築は、施工発注を待ち続けることではありません。自社が将来担いたい役割に近づく活動です。
営業先を選ぶ際には、その接点が「施工の依頼先として知ってもらうためのもの」なのか、「計画から一緒に考える相手を探すためのもの」なのかを先に揃えます。同じ大手企業との接点でも、目的によって生かし方は変わります。
まとめ
案件数が限られる専門工事では、会える企業の大きさよりも、自社が受注できる条件が揃うかどうかが営業先選びの軸になります。
年間にどれだけ対象工事があり、相手企業が実際に受注し、新規の施工業者が入る余地があるのか。さらに、いつ仕事になり、どの程度の粗利が残るのかまで確認することで、接点への期待を具体的な判断に変えられます。
数年先の案件も、一律に評価を下げる必要はありません。ただし、将来の施工紹介と、計画段階から関わるための関係構築は別です。近い受注を増やす活動と、将来担いたい仕事に近づく活動を分けることが、営業先にかける時間と費用を決める出発点です。
大手への接点を受注につなげるための整理先
「誰に会えるか」の前に、「どの工事を、いつ、どの立場で受けたいか」から整理することもできます。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を横断して整理し、実行まで支援しています。販路開拓についても、接点づくりだけでなく、狙う工事の案件数や発注の余地、粗利の見通しを踏まえ、営業先と進め方を一緒に考えます。
「大手を紹介してもらえるが、自社に合うのかわからない」「近い受注と将来の関係づくりをどう分ければよいか」といった段階でもご相談いただけます。無理に営業や支援の利用をお勧めすることはありませんので、自社の場合に何から確かめるべきかを整理する場としてお声がけください。