前提

年商は2億円台から3億円台後半まで伸びた一方、塗装・防水部門に施工余力を残す関東の専門工事会社

神奈川県を拠点に関東一円で施工する、年商3億円台後半の専門工事会社があります。全社売上は数年続けて伸び、利益率も改善していました。一見すると、営業面の大きな問題はないように見えます。

ただ、部門別に見ると状況は異なります。経営者自身が顧客を開拓してきた部門は仕事量が安定している一方、塗装・防水部門は既存顧客からの依頼が中心で、低い売上水準のまま推移していました。

ある月は、全社月商が約2,500万円だったのに対し、塗装・防水部門は約350万円。年間では利益が出ていても、経営者には「この月は、もっと仕事を入れられたのではないか」という感覚が残っていました。

しかも、現在の職人数でも施工量を大きく増やせる見込みがあります。「職人の数から考えれば、今の倍近くはできる」という状態です。

全社売上が伸びていることと、各部門が十分に稼働していることは別の話です。営業投資の必要性は、会社全体の売上だけでなく、部門別の受注量と施工余力から判断する必要があります。

課題

足元の好調が来期の案件を保証せず、低稼働の月を埋める仕組みも決まっていない状態

この会社が抱えていたのは、売上不振ではありません。売上が伸びている間に、次の案件を生み出す仕組みをつくるべきか判断できていないことでした。

経営者は現状を、次のように捉えていました。

「来年も今のままなら、よくて現状維持。悪くなれば下がるしかない」

これまでの売上は、既存顧客との関係や経営者自身の開拓に支えられてきました。しかし、塗装・防水部門では新しい顧客との接点が十分に増えていません。社内には「人づてや紹介でやっていける」という見方もありましたが、実際には長期間、新規紹介が生まれていない状況でした。

それでも足元の売上は伸びているため、営業に費用をかけるべきか、現状のまま進むべきかで判断が分かれます。営業施策には成果の不確実性があり、目に見えない費用が先に出ていくからです。

ただし、現状維持にも不確実性があります。既存顧客の発注時期が重ならなければ、施工できる職人がいても案件不足の月が発生します。紹介を待つだけでは、必要な時期に必要な案件が入るとは限りません。

「営業にお金をかけなければ費用は発生しない」という見方だけでは不十分です。施工余力を使えないまま終わる機会損失も、経営上のコストとして捉える必要があります。

背景

既存顧客への安心感と部門別の受注格差が、営業強化の必要性を見えにくくしている構造

判断が難しくなる背景には、既存顧客が一定の仕事を発注してくれる安心感があります。塗装・防水部門も仕事がまったくないわけではなく、年間を通せば黒字です。そのため、営業投資をしなくても事業は続けられます。

一方で、その安定は「十分な仕事量での安定」ではなく、経営者の言葉を借りれば「低いラインで安定している」状態でした。既存顧客だけでも本来はもう少し売上を伸ばせるはずですが、案件の時期が重ならず、低稼働の月が年に何度か発生しています。

ここで押さえておきたいのは、売上の増減だけでは営業課題を正しく見られないことです。少なくとも、次の4点を分けて確認する必要があります。

  • 部門ごとの月別売上に、どの程度のばらつきがあるか
  • 現在の人員で、最大どこまで施工量を増やせるか
  • 売上が特定の既存顧客や経営者個人の開拓力に偏っていないか
  • 来期の売上を支える案件や顧客接点が、すでにどれだけあるか

今回の会社では、全社売上は増えているものの、塗装・防水部門には倍近い施工余力がありました。また、新規顧客の獲得は仕組み化されておらず、既存顧客の発注と紹介への期待が中心でした。

売上が伸びていても、受注経路が増えていなければ、来期の再現性は高まりません。営業投資の判断では「今年いくら売れたか」より、「その売上を来年もつくれる構造か」を見ることが重要です。

解決

稼働余力と売上下振れ額を先に数値化し、必要な案件数から営業施策を選ぶ進め方

営業投資をするかどうかは、ホームページや営業支援などの手段から考えると迷いやすくなります。先に整理したいのは、どの程度の仕事を増やす必要があるのかです。

1.部門別の売上実績と施工可能額を並べる

まず、塗装・防水など営業を強化したい部門について、月別売上と現在の人員で対応可能な売上を並べます。

今回のように、低い月が約350万円である一方、現在の人員でも大幅に施工量を増やせるなら、その差が営業で埋める対象です。年間売上が黒字かどうかだけでなく、低稼働月が何回あり、どれほどの施工余力が残ったのかを確認します。

営業投資の上限は感覚で決めるのではなく、未稼働の施工余力によって失っている売上・利益との比較で考えます。

2.来期の売上下振れリスクを見える形にする

次に、来期売上を「すでに見えている案件」と「まだ見えていない売上」に分けます。既存顧客がいる場合も、前年と同じ発注がある前提にはせず、確度を分けて確認したほうが判断しやすくなります。

特に確認したいのは、次の点です。

  • 継続発注が見込める既存顧客の売上
  • 受注時期が読めない既存顧客の売上
  • 紹介を前提としている売上
  • 新しい営業活動をしなければ確保できない売上

ここで不足額が見えれば、営業施策に求める成果も明確になります。単に「問い合わせを増やす」ではなく、「塗装・防水部門の低稼働月を埋めるために、年間でどれだけの受注が必要か」まで落とし込めます。

3.営業施策は、目標との距離と実行負荷で比べる

この会社では、企業案件を開拓する方法と、ホームページを通じて個人顧客を獲得する方法が候補になっていました。どちらにも利点がありますが、比較すべきなのは好みではありません。

判断軸は、次のように整理できます。

  • 欲しい工事と合う顧客に接点を持てるか
  • 目標売上に届く件数を見込めるか
  • 同じ方法で成果を出した実績や根拠があるか
  • 見積もりや顧客対応を社内で処理できるか
  • 施工能力を超えた場合に、施策を調整・停止できるか

「毎日何件訪問する」といった行動量だけでは、投資判断の根拠としては弱くなります。どの顧客層に接点をつくり、どれくらいの見積もりや受注につなげるのかまで設計する必要があります。

一方、ホームページによる集客は、制作して終わりではありません。公開後の運用や問い合わせ対応も必要です。企業向けの開拓であれば、狙う会社の規模、工事内容、エリア、発注ニーズを具体化しなければ、接点が増えても受注につながりにくくなります。

営業施策は「できそうか」ではなく、「必要な売上をつくれるか」「社内で対応できるか」「成果に応じて調整できるか」の3点で選ぶと整理しやすくなります。

4.現状維持を選ぶ場合も、獲得施策をセットにする

現状維持そのものが悪いわけではありません。外部に費用をかけず、自社で既存顧客への提案や紹介獲得を進める選択もあります。

ただし、その場合も「今までどおり」ではなく、売上目標と行動をセットにする必要があります。

たとえば、次の内容を明らかにします。

  • 来期に増やす売上額
  • 狙う顧客層と工事内容
  • 誰が顧客開拓を担うのか
  • どの活動から見積もりを生み出すのか
  • どの時点で成果を振り返り、別の施策を検討するのか

「自分たちで営業する」なら、外部投資が不要になる代わりに、社内の時間と責任が必要です。目標と具体策がなければ、現状維持ではなく、既存顧客からの発注を待つ状態に戻ってしまいます。

営業投資をしない判断にも、営業計画は必要です。売上目標と獲得方法を説明できて初めて、現状維持が経営上の選択肢になります。

まとめ

売上が伸びている会社ほど、営業投資の必要性は見えにくくなります。しかし、判断材料にすべきなのは足元の全社売上だけではありません。

  • 部門別に低稼働の月があるか
  • 現在の人員にどれだけ施工余力があるか
  • 既存顧客や紹介への依存が高くないか
  • 来期の売上を再現できる受注経路があるか
  • 営業施策によって必要な売上を現実的に補えるか

今回の会社では、売上も利益率も伸びていました。それでも経営者が来期に不安を感じたのは、塗装・防水部門の余力を埋める受注経路ができていなかったからです。

営業強化に踏み切る基準は、会社が好調か不調かではありません。施工余力と来期の不足売上があり、それを埋める具体策が社内にないなら、営業投資を検討する理由は十分にあります。

来期の売上と営業施策を一緒に整理したい方へ

「営業を強化したほうがよい気はするが、どこまで費用をかけるべきかわからない」「ホームページ、企業開拓、現状維持のどれが自社に合うのか判断できない」という段階では、まず部門別の施工余力と必要売上を整理するところから始められます。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の販路拡大を、現場の受注余力や顧客構成、社内の対応体制まで含めて整理し、実行まで支援しています。何から整理すべきかわからない状態でも問題ありません。無理に特定の施策を勧めることはありませんので、自社の場合の判断軸を確認したいときにご相談ください。

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