国土交通省は、令和8年9月分の「建設労働需給調査結果」を公表しました。全国の8職種の過不足率は、9月は1.3%の不足でした。前月の8月も1.3%の不足であり、足元では横ばいです。一方で、前年同月の1.1%不足からは0.2ポイント不足幅が拡大しています。
公表内容 | 建設労働需給調査結果(令和8年9月分) |
調査対象日 | 令和8年9月10日~20日までの間の1日(日曜、休日を除く) |
全国8職種の過不足率 | 1.3%の不足 |
前月との比較 | 令和8年8月も1.3%の不足で横ばい |
前年同月との比較 | 令和7年9月の1.1%不足から0.2ポイント不足幅が拡大 |
今後の労働者確保の見通し | 令和8年11月・12月は「普通」 |
1.3%不足は「落ち着いている」ではなく「不足が定着している」と見るべきです
今回の数字だけを見ると、前月と同じ1.3%不足です。急激に悪化したわけではありません。今後の労働者確保の見通しも、11月・12月は「普通」とされています。
ただし、中小建設業の経営目線では、ここを楽観しすぎない方がよいです。大事なのは、不足率がゼロに戻っているのではなく、1%台の不足が続いているという点です。
現場では、たった1人、たった1班が足りないだけで、工程の組み替え、応援依頼、休日対応、外注単価の上昇、元請との調整が発生します。全国平均の1.3%という数字は小さく見えても、会社単位・現場単位では「今週の職長が足りない」「型枠の手配が遅れる」「土工を早めに押さえないと間に合わない」という形で表れます。
つまり今回の結果は、人手不足が一時的な波ではなく、経営管理の前提条件になっていることを示す数字として受け止めるべきです。
前年同月より不足幅が広がったことに注意したいです
今回、前年同月の1.1%不足から、今年9月は1.3%不足へと、0.2ポイント不足幅が拡大しています。
この差だけで大きな判断をする必要はありませんが、採用・定着・協力会社確保の現場感覚と合わせると、見逃せない変化です。
中小建設業では、求人を出しても応募が少ない、若手が入っても定着に時間がかかる、ベテランへの負担が増えている、協力会社の予定が以前より早く埋まる、といった声が出やすくなっています。今回の調査結果は、そうした実感と大きく矛盾しません。
特に注意したいのは、繁忙期に入ってから人を探しても間に合いにくいということです。人材紹介、求人広告、学校訪問、協力会社への打診、既存社員の配置転換。どれも、今日動いて明日解決するものではありません。
今後の見通しが「普通」であっても、自社の受注予定や手持ち工事を見たときに、特定職種・特定現場で詰まりが出る可能性はあります。
中小建設業が見るべきは「全国平均」より自社のボトルネックです
国の調査は、業界全体の空気をつかむには有効です。一方で、経営判断に使うときは、自社のボトルネック職種に置き換えることが欠かせません。
たとえば、次のような確認です。
- 今後2〜3か月の工程で、特定の職種・班に負荷が集中していないか
- 協力会社に依頼する工種は、すでに予定を押さえられているか
- 元請からの追加・変更に対応できる余力があるか
- 現場代理人、職長、施工管理者に負担が寄りすぎていないか
- 採用活動が「欠員が出てから動く」形になっていないか
全国の不足率が1.3%であっても、自社にとって必要な職種が不足していれば、経営上の影響は大きくなります。逆に、全体として人手不足でも、自社の強い職種・協力会社網が安定していれば、受注判断や価格交渉で有利に働くこともあります。
大切なのは、調査結果をそのまま読むのではなく、自社の工程表・人員表・協力会社リストに重ねて読むことです。
見積と受注判断にも労務需給を織り込む時期です
人手不足は、採用担当だけの問題ではありません。見積、原価管理、工程管理、営業判断にも関係します。
労務が不足気味の局面では、外注費や応援単価が上がりやすくなります。また、人を確保するために早めの発注や仮押さえが必要になり、工程の自由度も下がります。結果として、受注時に見込んだ利益が、施工段階で削られることがあります。
そのため、今後の見積では、「人が通常どおり確保できる前提」だけで原価を組まないことが重要です。
具体的には、次のような見方が必要です。
- 外注単価が直近の実績から変わっていないか
- 協力会社を確保するためのリードタイムを工程に入れているか
- 現場管理者の兼務が増えすぎていないか
- 短納期案件を受けた場合、他現場にしわ寄せが出ないか
- 利益率だけでなく、人員負荷を見て受注判断できているか
労務需給がひっ迫しているときほど、売上を取りにいく判断と、現場を守る判断のバランスが問われます。「受けられる仕事」と「利益を残して納められる仕事」は、必ずしも同じではありません。
採用だけでなく「辞めにくい会社づくり」が効いてきます
建設労働需給の不足が続くなかで、採用活動を強めることはもちろん重要です。ただ、それ以上に効いてくるのが、今いる社員が辞めにくい会社づくりです。
求人市場で人材を獲得するには時間も費用もかかります。未経験者を採用した場合は、育成にも時間が必要です。だからこそ、既存社員の定着、若手の育成、職長層の負担軽減、評価や賃金の納得感づくりが経営課題になります。
現場では、「最近どうだ」「きつくなっていないか」「この現場が終わったら少し休ませよう」といった日々の声かけが、意外なほど大きな意味を持ちます。一方で、声かけだけでは限界もあります。配置、休日、手当、教育、評価、将来の役割まで含めて整えていく必要があります。
今回の調査結果をきっかけに、採用数だけでなく、離職を防ぐ仕組みまで点検することをおすすめします。
今回の調査結果から、まず社内で確認したいこと
今回の発表は、すぐに制度対応が必要なニュースではありません。しかし、経営会議や幹部会議で一度確認しておきたい内容です。
特に、次の3点は見ておきたいところです。
- 今後2〜3か月の現場で、人員不足が起きそうな職種・工程はどこか
- 協力会社の確保状況は、工程に対して十分か
- 採用・定着・外注確保の取り組みが、場当たり的になっていないか
国の数字は、あくまで全体の傾向です。しかし、そこから自社の未来を読むことはできます。今回の1.3%不足という結果は、建設業にとって、人材確保を一時対応ではなく、経営の中心課題として扱い続ける必要があることを改めて示しています。
自社の人員計画を一度、現場目線で整理してみる
労務需給のニュースを見たときに大切なのは、「業界全体が大変だ」で終わらせないことです。自社の工程、人員、協力会社、採用、定着を並べてみると、次に打つべき手が見えやすくなります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。建設企業の持続的成長を支援し、ものづくりに集中できる建設業界へ近づけていくための伴走を行っています。
「うちの場合、この人手不足をどう見ればよいか」「採用だけでなく定着や配置も含めて整理したい」「受注量と人員体制のバランスを見直したい」という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、状況整理の壁打ち先として必要なときにご相談ください。