国土交通省は令和8年10月28日、「国土交通月例経済(令和8年10月号)」を公表しました。建設分野では、2026年8月の建設工事の元請受注高が前年同月比で増加し、下請受注高も大きく伸びています。一方で、2026年7月の建設工事費デフレーターも前年同月差で上昇しており、受注環境とコスト環境をセットで見る必要があります。

公表資料

国土交通月例経済(令和8年10月号)

公表日

令和8年10月28日

建設工事の元請受注高

2026年8月:6兆4,897億円(前年同月比3.3%増)

公共機関からの受注高

1兆7,844億円(前年同月比2.2%増)

民間等からの受注高

4兆7,053億円(前年同月比3.7%増)

下請受注高

3兆4,681億円(前年同月比20.2%増)

新設住宅着工戸数

63,974戸(前年同月比6.1%増)

建設工事費デフレーター

2026年7月:建設総合135.4ポイント(前年同月差10.7ポイント増)

中小建設業が見るべき点

受注増をそのまま好材料と見るのではなく、原価上昇を織り込んだ利益管理が必要

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受注は増えています。ただし「忙しさ」と「利益」は分けて見る必要があります

今回の建設分野でまず目に入るのは、2026年8月の建設工事の元請受注高が6兆4,897億円、前年同月比3.3%増となった点です。

内訳を見ると、公共機関からの受注高は1兆7,844億円、前年同月比2.2%増、民間等からの受注高は4兆7,053億円、前年同月比3.7%増でした。公共、民間ともに前年を上回っています。

さらに、下請受注高は3兆4,681億円、前年同月比20.2%増と大きく伸びています。中小建設業、特に専門工事会社や地域の下請企業にとっては、現場の引き合いが強いことを感じやすい数字です。

ただし、ここで大事なのは、受注が増えていることと、会社に利益が残ることは別問題だという点です。

現場では「仕事はある」「応援の声もかかる」「職人の予定も埋まっている」という状態でも、材料費、外注費、労務費、燃料費、移動コストが上がっていれば、決算書上の利益は思ったほど残らないことがあります。今回の月例経済は、まさにその確認材料として使えます。

工事種類別では、土木が強く、機械装置等は減少しています

工事種類別の元請受注高を見ると、2026年8月は次のようになっています。

  • 土木工事:1兆7,238億円(前年同月比7.5%増)
  • 建築工事・建築設備工事:3兆9,922億円(前年同月比2.5%増)
  • 機械装置等工事:7,737億円(前年同月比1.6%減)

全体としては増加していますが、工事種類によって温度差があります。土木工事は前年同月比で比較的大きく伸び、建築工事・建築設備工事も増加。一方、機械装置等工事は減少しています。

中小建設業としては、自社の主力工種が、いま市場全体のどの流れに乗っているのかを確認したいところです。

たとえば、土木系の会社であれば、受注環境が比較的堅調に見えるなかで、限られた施工体制をどの案件に振り向けるかが重要になります。建築・設備系の会社であれば、全体は増加しているものの、後述する非居住建築物の着工床面積には弱い項目もあるため、用途別の動きを見る必要があります。

地域別では、東京圏が増加、名古屋圏・大阪圏は減少しています

地域別の元請受注高には、かなりはっきりした差が出ています。

2026年8月の元請受注高は、東京圏が3兆1,172億円(前年同月比14.9%増)、名古屋圏が3,732億円(前年同月比11.9%減)、大阪圏が8,398億円(前年同月比22.4%減)、その他地域が2兆1,594億円(前年同月比4.5%増)でした。

この数字から読み取れるのは、全国一律で建設需要が伸びているわけではないということです。

東京圏は大きく増えています。一方で、名古屋圏、大阪圏は前年同月比で減少しています。その他地域は増加です。

もちろん、単月の数字だけで地域経済の先行きを決めつけることはできません。ただ、経営判断としては、次のような見方ができます。

  • 自社エリアの元請・ゼネコン・不動産会社の発注姿勢に変化が出ていないか
  • 応援要請や協力会社間の人手の取り合いが強まっていないか
  • 近隣エリアへの出張施工を増やすべきか、地元案件を厚く取るべきか
  • 移動費・宿泊費・管理コストを含めても採算が合うか

特に中小企業では、エリアを広げれば売上は伸びても、管理が薄くなり、現場品質や利益率が落ちることがあります。地域別の需要差は、売上拡大の話であると同時に、施工管理体制の話でもあります。

住宅着工は増加。貸家・分譲住宅も前年を上回っています

2026年8月の新設住宅着工戸数は、63,974戸(前年同月比6.1%増)でした。

利用関係別では、持家が17,713戸(前年同月比1.0%増)、貸家が28,309戸(前年同月比6.5%増)、給与住宅が1,114戸(前年同月比228.6%増)、分譲住宅が16,838戸(前年同月比6.4%増)となっています。

住宅関連の工事に関わる会社にとっては、着工戸数の増加は前向きな材料です。基礎、外構、内装、設備、電気、給排水、塗装、防水など、住宅着工の動きは幅広い専門工事に波及します。

ただし、ここでも見るべきは件数だけではありません。住宅は単価競争になりやすく、工期もタイトになりやすい分野です。

着工が増えている局面では、つい「取れるだけ取る」という判断になりがちです。しかし、人員に限りがある会社ほど、案件ごとの粗利、手戻りリスク、移動距離、元請との関係性を見て、受ける仕事を選ぶことが重要になります。

民間非居住建築物では、工場・倉庫が大きく減っています

民間建築主による建築物の着工床面積は、2026年8月に718万㎡(前年同月比1.0%増)でした。

一方で、民間の非居住用建築物に絞ると、着工床面積は215万㎡(前年同月比8.5%減)です。用途別では、事務所が28万㎡(前年同月比1.7%増)、店舗が25万4千㎡(前年同月比7.1%減)、工場が34万3千㎡(前年同月比32.7%減)、倉庫が49万㎡(前年同月比18.0%減)となっています。

ここは見落とせません。

工場や倉庫に強い会社は、今後の見積依頼や計画案件の動きに注意しておきたい数字です。 単月の着工床面積なので過度な判断は避けるべきですが、少なくとも「非住宅なら全部強い」とは言えない状況です。

工場・倉庫案件は、建築本体だけでなく、土間、鉄骨、屋根、外壁、電気、空調、消防、舗装、外構など、多くの専門工事に関係します。着工床面積の減少が続く場合、数カ月後の協力会社の稼働や受注単価に影響が出る可能性があります。

リフォーム・リニューアルは非住宅が強い。ただし今月号では未更新です

建築物リフォーム・リニューアル工事の受注高は、今月号では未更新です。資料では、2026年度第2四半期の公表予定は2026年12月号とされています。

掲載されている直近値として、2026年度第1四半期の建築物リフォーム・リニューアル工事の受注高は、合計で5兆427億円(前年同期比22.8%増)でした。そのうち、住宅は1兆807億円(前年同期比7.6%減)、非住宅建築物は3兆9,619億円(前年同期比34.9%増)です。

この数字は、中小建設業にとって大事です。

新築だけを追うのではなく、改修・更新・修繕・リニューアルを事業の柱としてどう組み込むかが、今後さらに重要になります。特に非住宅のリフォーム・リニューアルは、工場、倉庫、店舗、事務所、公共性の高い施設など、既存建物を使い続けるための投資と関係します。

新築と違い、改修工事は現場調査、見積精度、工程調整、近隣・テナント対応、夜間休日対応などの力が問われます。つまり、価格だけでなく、段取り力や現場対応力を評価されやすい分野でもあります。

最大の論点は、建設工事費デフレーターの上昇です

今回の資料で、経営者が最も強く意識したいのは建設工事費デフレーターです。

2026年7月分の建設総合のデフレーターは、135.4ポイント(前年同月差10.7ポイント増)でした。内訳では、建築総合が135.1ポイント(前年同月差10.2ポイント増)、土木総合が135.1ポイント(前年同月差11.1ポイント増)です。

デフレーターは、建設工事費の価格変動を見るための指標です。今回の数字は、建設コストの上昇圧力が続いていることを示しています。

ここで中小建設業が取るべき姿勢は明確です。

見積の前提を古いままにしないこと。

「去年はこの単価でできた」「以前の元請とはこの金額でやっていた」「この工種はだいたいこの人工で見ていた」という感覚が、いまの原価に合わなくなっている可能性があります。

特に確認したいのは、次の項目です。

  • 材料単価をいつ更新したか
  • 外注単価を最新の相場で見ているか
  • 労務費上昇を見積に反映できているか
  • 運搬費、燃料費、駐車場代、宿泊費を別枠で見ているか
  • 追加変更工事の請求ルールが曖昧になっていないか
  • 長期工事で価格変動リスクを誰が負う契約になっているか

受注が増えている時期ほど、現場は忙しくなります。忙しくなると、見積の検証や実行予算の見直しが後回しになります。しかし、原価上昇局面では、見積と実行予算の粗さがそのまま利益の漏れになります。

中小建設業が今月の数字から考えたい3つのこと

今回の月例経済は、制度改正や補助金のように「何月何日までに申請する」という情報ではありません。けれど、経営判断の材料としては非常に使えます。

特に考えたいのは、次の3つです。

1. 受注残を「金額」ではなく「利益」で見る

受注高が伸びている局面では、売上予定が積み上がって安心しがちです。しかし、いま見るべきは売上ではなく、受注残の粗利見込みです。

同じ1億円の受注でも、粗利がしっかり残る案件と、人員を取られるだけの案件では意味がまったく違います。これからは、受注会議で「売上はいくらか」だけでなく、「この案件は何%残るのか」「追加変更を取れる条件になっているのか」まで見る必要があります。

2. 忙しい工種ほど、単価改定を先送りしない

下請受注高が前年同月比20.2%増という数字は、現場側の仕事量の強さを感じさせます。

こういう時期は、本来であれば単価交渉の余地も生まれやすいはずです。ただ、長年の取引関係があると、「いつもの単価でお願いします」と言われ、そのまま受けてしまうこともあります。

もちろん、関係性は大切です。けれど、赤字に近い単価で受け続けることは、結果的に人材確保や安全投資を弱くします。 長く付き合うためにも、原価が上がっている事実を数字で示し、必要な単価改定を丁寧に話すことが大切です。

3. 新築偏重から、改修・維持更新も含めた受注設計にする

住宅着工は増加していますが、民間非居住建築物では弱い用途もあります。一方、直近掲載値では、非住宅のリフォーム・リニューアル工事受注高が前年同期比で大きく伸びています。

この流れを見ると、新築だけに依存せず、改修・修繕・更新工事をどう取り込むかが重要になります。

小規模な改修、営繕、設備更新、外壁・屋根、防水、内装、原状回復、工場のライン変更に伴う工事などは、中小建設業の機動力が活きやすい領域です。大きな新築案件だけでなく、継続的に声がかかる小回りの利く体制をつくることが、安定受注につながります。

経営会議では「市場は悪くない。でも利益管理は甘くできない」と共有したい

今回の国土交通月例経済を一言で見るなら、建設需要は一定の強さがあるが、コスト上昇を前提に経営しなければならないという内容です。

受注が増えていることは前向きな材料です。住宅着工も増えています。下請受注高も大きく伸びています。

一方で、建設工事費デフレーターは上昇しています。地域差もあります。非居住建築物では、工場や倉庫の着工床面積が減っています。

つまり、これからの経営では、単に「仕事を取る力」だけでなく、取る仕事を選ぶ力、見積を更新する力、原価を見える化する力が重要になります。

現場が忙しい会社ほど、月に一度でもよいので、次のような確認をしておきたいところです。

  • 今の受注残は、予定粗利で見ると健全か
  • 最近の見積は、最新原価を反映できているか
  • 赤字化しやすい元請・工種・エリアが見えているか
  • 応援・外注を入れた場合の利益率を把握しているか
  • 改修・リニューアル案件の営業先を増やせているか

市場環境を読むことは、未来を当てるためではありません。自社の打ち手を早めに整えるためです。

自社の受注環境と利益管理を整理するきっかけに

今回のような統計は、「全国の数字だから自社には関係ない」と見えてしまうこともあります。けれど、受注高、地域差、住宅着工、非住宅の用途別動向、工事費デフレーターを並べて見ると、自社の見積、営業、施工体制、原価管理を見直す材料になります。

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